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MAD LIFE 083

6.女の勇気に拍手!(9)

1(承前)

 向きを変え、一目散に走る。
 一刻も早く由利子さんを助け出して、ここから逃げよう。
 瞳は中央の倉庫へと向かった。
 もし、無事にここから逃げ出すことができたら……
 荒い呼吸を繰り返しながら、ようやく決断する。
 逃げ出すことができたら、すべてを警察に打ち明けよう。
 そうしなければ、どんどんみんなが不幸になってしまう。
 瞳は倉庫の扉に手をかけた。
 もう誰にも迷惑はかけられない。
 いくつもある鍵をひとつずつ南京錠に差しこんでいく。
 時折、後ろを振り返った。
 まだ小池たちが追いかけてくる気配はない。
 しかし、見つかるのは時間の問題だ。
 焦りながら七つめの鍵を鍵穴に入れる。
 澄んだ金属音が聞こえ、南京錠ははずれた。
 重い扉を引っ張る。
 ガラガラと大きな音が響いた。
 小池たちに聞こえなかったはずはない。
 早く! 早く!
 瞳ひとりが通れるだけの隙間を空け、彼女は倉庫の中へ飛びこんだ。
 室内は真っ暗でなにも見えない。
「由利子さん、どこですか?」
 闇に向かって叫ぶと、すぐ近くから由利子のか細い声が聞こえた。
「……ここよ」
 声のするほうに顔を向け目を凝らす。
 しばらくすると、暗闇の中に由利子の姿が浮かびあがった。
「由利子さん!」
 瞳は由利子のもとへ駆け寄ると、彼女の腕を縛っている太いロープをほどきにかかった。
 由利子の手はひどく冷たい。

(1985年11月3日執筆)

つづく

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