MAD LIFE 378
25.最後の嵐(13)
5(承前)
「いやあっ!」
瞳は泣き叫びながら、洋樹にすがりついた。
「どうして? どうして私を助けたりするの?」
「当然だろ……」
洋樹がかすれた声でいう。
「おまえは俺の……」
そこまでしゃべり、洋樹は意識を失った。
顔から一気に血の気が引いていく。
「死んじゃ駄目! 死んじゃ駄目だよ、パパ!」
「……え?」
浩次が驚きの表情を瞳に向けた。
「パパ? じゃあ、春日さんが……」
「そうだよ!」
瞳は叫んだ。
「私のパパ! 私を命がけで守ってくれた……これが本当の私のパパなの! お願い! パパを助けて!」
「大丈夫。腹の横をかすめただけだ。命に別状はない」
洋樹の容態を見て、浩次はいった。
「……よかった」
瞳はほっとした表情でその場に崩れ落ちる。
晃が瞳の肩にやさしく触れた。
「晃君……」
瞳は彼の胸の中へ飛び込み、泣きじゃくった。
その姿に浩次は安堵を覚える。
彼女にもようやく、胸の中で思うがままに泣くことのできる相手ができたのだ。
嵐は去った。
浩次は夜空を見上げる。
これでようやくすべてが終わったのだ。
6
旧埠頭の事件から十日が過ぎた。
「パパ。お花を持ってきたよ」
瞳と俊、そして恵美の三人がそろって病院へやってきたのはこれが初めてのことだった。
(1986年8月25日執筆)
つづく
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