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MAD LIFE 024

2.不幸のタネをまいたのは?(10)

3(承前)

 瞳は受話器を戻すと、うつろな目で洋樹を見上げた。
「私……どうすればいい?」
「いまの電話は長崎という奴からだったんだな?」
「うん……明日、〈レジャー新宿〉へ金を持ってこいって」
「金は俺が貸すよ」
 洋樹の言葉に、瞳は驚きの表情を示した。
「全然関係のないおじさんにそんなこと――」
「関係なくはない。君の写真を拾ったのが、なにかの縁だったんだ。明日、俺も一緒に〈レジャー新宿〉へ行こう」
 瞳の目に戸惑いの色が浮かぶ。
「……どうした?」
 洋樹は彼女の顔を覗きこんだ。
「ねえ、おじさん……私の写真、どこで拾ったの?」
 思いがけない質問を投げかけてくる。
「自宅近くの路地でだけど……それがどうかしたのか?」
「あの写真……クラスの男の子にあげた写真なの」
 窓から射しこむ月明りを見ながら、瞳はいった。
「その男の子の苗字……長崎っていうんだ」

「あいつ、なかなかやるな」
 白いハンチング帽の男――長崎は腹をさすりながらいった。
「大丈夫ですか?」
 長崎の上半身を支えながら、心配そうに小池が訊く。
「馬鹿野郎。俺はそんなにやわじゃねえよ」
 長崎は笑った。
「あいつ……中西とかいったな。サラリーマンにしておくのはもったいねえ」
「中西は鎖で縛っておきましたから、以後は絶対に動くことなんてできやしません」
「よし。あいつの処置は決まった」
 長崎がいう。
「やっちまいますか?」
「いや」
 下唇をなめ、長崎は次の言葉を続けた。
「あいつは俺の部下にする」

(1985年9月5日執筆)

つづく

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