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海が見たくなる季節 2

 2

 夢を見た。
 夢の中で僕は広い――気の遠くなるほど広い部屋にいた。その部屋は、どこまで進んでも終わりがないように思えた。
 部屋にはなにも存在しなかった。ただ、僕だけがそこに立っている。
 床も壁も天井も真白にベタ塗りされており、その中に存在するのは黒い服を着た僕ひとりのみだった。
 ここはどこだ?
 僕は不安になった。みんなはどこにいるのだろう? 父さんは? 母さんは?
 お母さん! と大声で叫ぼうとしたが、どうしても声を出すことができなかった。口を開いても、ただ空気が漏れていくばかりだ。
 早く家へ帰りたい!
 どちらへ向かえばよいのかわからないまま、僕は走り出していた。
 いつまでも、こんな場所にはいたくなかった。一刻も早く、ここから逃げ出さなければならない。
 僕は無我夢中で走り続けた。全身から、どっと汗が吹きこぼれる。
 いつまで走るんだ?
 そう自問した。
 もう何十分……いや、何時間走ってる?
 もしかしてどこまで走っても、この空間には終わりなどないのかもしれない。それでも僕は、走り続けた。
 ……どうして?
 後ろを振り返る。そこに答えがあるように思えたのだ。
 広く白い空間が、僕を取り囲んで追いかけていた。
 逃げている?
 僕の足取りは、さらに速くなった。
 そうだ、僕は逃げているんだ。だけど、なにから? なにから逃げているんだろう?

 次の瞬間、僕の体は宙に浮いた。
 今まで僕を取り囲んでいた白い空間が、突然消え失せる。
 僕は穴の中を落ちていった。
 落ちる、落ちる、落ちる――。
 駄目だ! 落ちるのは嫌だ!
 直感でわかった。
 落ちたら大変なことになる。このままでは逃げきれない。僕はあいつに捕われてしまう。
 ……オウチヘカエリタイ!
 僕は必死になって手足を動かし、もがいた。
                           つづく

※読みやすくするため、原文に多少の修正を加えております。

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