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MAD LIFE 272
18.〈フェザータッチオペレーション〉の正体(16)
4(承前)
都会は一日に一度だけ 素顔を見せてくれる
私は好きなの 夜明け前のブルーグレイの横顔
あなたも疲れて悲しそう 大きな都市 Mr.メトロポリス
けれど新しい陽が昇れば
あなたはまたスーパースター
輝き始めた窓ごとに 名もない命が目を覚ます
そして聞こえだす 今日のシンフォニー
そうね 私はひとりじゃない
ああ 素晴らしい道連れに出会えそう
あなたの冷たさに泣く人も 生きてることがわかる
私も昨日振り向かず 今日を歌って歩くわ
あなたは気ままでひたむきな 私の都市 Mr.メトロポリス
そして新しい陽がのぼれば
悲しみさえ思い出
時間がすべてを洗い流してくれるさ。
洋樹は夜明けの街を眺めながらそんなことを思った。
台風はもう過ぎ去ったんだからな。
真っ赤な朝日が彼の顔を照らす。
そうさ――その証拠に、今はこんなにも静かじゃないか。
自分が大きな勘違いをしていることに、洋樹はまだ気づいていなかった。
いつもと変わらぬ通勤ラッシュ。
「春日さん、おはようございます」
いつもと同じように中西が声をかけてくる。
「今日も暑いですね」
「まったく……身体が溶けてしまいそうだ」
いつもどおりの他愛もない会話。
再び訪れた穏やかな日常。
だが、決して嵐が過ぎ去ったわけではない。
これから再び、嵐は激しくなる。
そのことを、洋樹たちはまだ知らない。
今、彼らは台風の目の中心に立っている――。
第三部 見えない台風 了
(1986年5月11日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ
※八神純子「Mr.メトロポリス」の歌詞全文を引用