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MAD LIFE 016

2.不幸のタネをまいたのは?(2)

 雨音で目を覚ます。
 身体のあちこちが痛い。
 中西は苦痛に顔を歪めながら、寝返りを打った。
 いつの間にか眠ってしまったらしい。
 彼の手足はロープでがんじがらめにされていた。
 思いきり殴られた顔は、まだ腫れているらしく、じんじんと疼いている。
 中西は昨夜のことを思い返した。

「おまえ、何者だ?」
 中西を縛りあげると、小池は煙草くさい息を吐き、そういった。
「ただのサラリーマンさ」
 ふんと鼻で笑って答える。
「どうして、あの喫茶店に現れた? なんで俺の名前を知っていたんだ?」
「おまえらがまぬけだからだよ」
「なんだと?」
 小池は声を荒らげると、中西の腹に拳を突き立てた。
 昼間食べたラーメンを吐き出しそうになる。
「やめておけ」
 サングラスをかけた初老の男が、小池をなだめる。
 小池はふてくされたようにつばを吐き、中西に顔を近づけた。
「いいか? 俺はおまえをぶっ殺すことだってできるんだからな」
 粋がった中学生のようなセリフに思わず笑ってしまう。
「なにがおかしい?」
「いや、べつに」
 中西は真顔に戻り、言葉を紡いだ。
「どうして俺があんたの名前を知っていたのか教えてやろうか?」
「ああ」
「あんたのまぬけなボスが間違い電話をしてきたんだよ」
 中西は事の顛末をすべて語った。
「……本当か?」
 戸惑いの表情が小池の顔に浮かぶ。
「まったく……あの人は……」
「おまえたちは善良な一般市民から毎日三万円を脅し取っているらしいな」
「善良な市民?」
 小池は鼻を鳴らした。
「馬鹿いうな。そいつは人を殺したんだぞ」

(1985年8月28日執筆)

つづく



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