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MAD LIFE 179

12.危険な侵入(12)

4(承前)

「ん?」
「窓の外」
 瞳は顔を伏せながらそういった。
 ガラス窓の向こう側を見て、洋樹は息を呑む。
 店の前をうろうろと歩き回っているのは中部警部だった。
 メニュー表で慌てて顔を隠す。
「なんで、あの人がこんなところに?」
 瞳が訊いてきたが、洋樹にだってわからない。
 やはり、この喫茶店にはなにかあるのだろうか?
 洋樹たちに気づくことなく、やがて中部は姿を消した。
「……おじさん。あのドア、なんだと思う?」
 瞳はグラスの中でストローを回しながら、洋樹の背後を目で示した。
 後ろを見る。
 そこにはふたつのドアがあった。
 右のドアには〈W.C.〉と記された札が掛かっている。
「トイレだろう?」
「違う。もうひとつのほう」
 洋樹は左のドアに目をやった。

 関係者以外立ち入り禁止 フェザータッチオペレーション

「興味あるな」
 その札を見て、洋樹はいった。
「入ってみる?」
 瞳が目を輝かせる。
 横目で店主の様子を確認した。
 店主はこちらに背を向けて洗い物をしている。
「よし、俺が行こう」
 トイレに行くふりをして、うっかりドアを間違えたことにすればいい。
「面白そう」
 瞳はくすりと笑った。

 (1986年2月7日執筆)

つづく

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