KUROKEN's Short Story 02
国語の教科書に載っていた星新一の「おーい でてこーい」にいたく感動した中学生のころ。ちょうど〈ショートショートランド〉という雑誌が発刊されたことも重なって、当時の僕はショートショートばかり読みあさっていました。ついには自分でも書きたくなり、高校時代から大学時代にかけて、ノートに書き殴った物語は100編以上。しょせん子供の落書きなので、とても人様に見せられるようなシロモノではないのですが、このまま埋もれさせるのももったいなく思い、なんとかギリギリ小説として成り立っている作品を不定期で(毎日読むのはさすがにつらいと思うので)ご紹介させていただきます。
落ち葉
西暦2✕✕✕年のある日。
地球上に存在する唯一の植物――大きな銀杏の木が、最後に残った一枚の葉を今まさに落とそうとしていた。
所狭しと立ち並ぶ化学工場のわずかな隙間に堂々とたたずみ、ざっと四百年は生きたといわれるこの大木も、めまぐるしく進行する地球汚染には勝てず、すっかり枯れてしまったのだった。
この日、大木の周りには世界中から何万人、何十万人もの人が押し寄せた。
マスコミも大量に集まり、決定的瞬間を全世界に向けて発信しようと躍起になっていた。
最後の一枚。
皆はまばたきをすることも忘れ、そのときが来るのをじっと待ち続けた。
そよ風が葉を揺らすたびに、どよめきが起こった。
やがて、運命のときがやって来た。
一瞬、強い風が葉に吹きつけた。
葉はそれまで必死にしがみついていた枝から手を放すと、ゆりかごに揺らされるように、右へ左へと移動しながらゆっくりと宙を漂い、そのままかすかな物音も立てずに、灰色のアスファルトの上へと落下した。
あたりはしんと静まり返り、そして次の瞬間、皆は大声で泣きわめいた。
皆は知っていた。
近い将来、我々人類も銀杏の大木と同じような運命をたどるということを。
誰もが涙をこぼした。
泣くことしかできないまま、気の遠くなるような歳月が過ぎた。
ママ、あのね。あたし、変なのよ。落ち葉を見てると、なんだか妙に胸が苦しくなるの。すごく悲しくなって涙が出てきちゃうの。どうしてかしら? え? ママもそうなの? 不思議ね。本当にどうしてなのかしら?
(1986年9月21日執筆)