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MAD LIFE 264

18.〈フェザータッチオペレーション〉の正体(8)

1(承前)

「君に頼みがある」
「俺に?」
 黒川は浩次にとてつもない恐怖を感じたのではないだろうか?
 理由はわからない。
 たぶん、野性の勘のようなものだ。
 逆らったらきっと、とんでもないことになる。
 そんな思いが頭をよぎったのかもしれない。
「頼みって……なんだ?」
 彼は恐る恐る浩次に尋ねた。
「なに、簡単なことさ」
 浩次が笑う。
「長崎を今夜九時、角栄デパートへ呼び出してくれればそれでいい」
「…………」
「もちろん、報酬は出す。一年間以上、遊んで暮らせる額だ」

「黒川は我々を裏切ったんだ」
 中部はいった。
「八月三十一日以降、黒川の姿を見た者はいない。おそらく黒川は浩次から報酬を受けると、どこかへ逃げちまったんだろうな」
 彼の話は続く。
「角栄デパートの周辺は、夜になると人通りが途絶える。黒川に呼び出されてデパートへ向かった長崎はそこで――」
「……私のお兄さんに殺された」
 瞳がぼそりとあとを継いだ。
「そういうことだ」
 瞳の視線を避けながら、中部は頷く。
「息絶える直前、長崎は自分を襲った犯人の名前を誰かに伝えようと考えた。偶然転がり込んだ場所が瞳君――君の住むアパートだったんだ」
「…………」
「長崎がいい残した言葉を君から聞いたとき、我々は長崎が告げたかったことに気がついた」
 中部はそこでひと息つくと、残念そうに頭を振った。

 (1986年5月3日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ 


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