MAD LIFE 366
25.最後の嵐(1)
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午前一時を数分過ぎていた。
小崎徹は八千万円の入ったスーツケースを強く抱きしめながら、犯人が現れるのを待っている。
彼から少し離れ場所には、仲睦まじい恋人になりすましたふたりの刑事が、海を眺めるふりをしながら座っていた。
さらに、そこから十数メートル距離を置いた堤防付近には、大勢の警察官が集まっている。
……ずいぶんと風が強い。
徹は海風を避けながら、腕時計に視線を落とした。
さっきから何度時計を確認しているかわからない。
午前一時八分。
闇の中に足音が響き渡った。
その音は確実に徹のほうへと近づいてくる。
徹は生唾を呑み込み、スーツケースを抱く腕に力を込めた。
彼の前に人影が現れる。
「小崎徹さんだね?」
その人物は低い声でいった。
暗くて顔はよくわからない。
「金は持ってきたか?」
「ああ、このとおり」
徹は男の前にスーツケースを差し出した。
「娘は無事なんだろうな?」
「心配するな。おまえたちがおかしな行動をとらなければ返してやるよ」
そういって、男はひったくるようにスーツケースを手に取った。
(1986年8月13日執筆)
つづく