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MAD LIFE 149
10.思いがけない訪問者(12)
4(承前)
「おい。そんな口をきいていいのか?」
中西はそういって、さらに男の腕をひねった。
「い、痛てててて。わかった、わかりました。出ていきます。出ていきますってば」
男が情けない声をあげる。
「二度と来るな!」
ふたりを家の外へ放り出すと、中西は入口のドアを閉め、しっかりと鍵をかけた。
「チクショー! 覚えておけよ!」
ドアの外から負け犬の捨て台詞が聞こえてくる。
「おじさん、すごい! 強いのね」
真知が部屋の奥から飛び出してきて、手を叩いた。
「さあ、もう一度訊くぞ。君は誰なんだ?」
中西はうんざりした表情を露骨に貼りつけて尋ねる。
「あたし?」
彼女は照れた様子で答えた。
「あたしはおじさんの恋人よ」
5
長崎は最後の力を振り絞って、明かりのついたアパートの前までやってきた。
先程からつまらないことばかり思い出す。
もしかしたらこれが死ぬ前に見る走馬灯というやつかもしれない。
ふと、部下である黒川の顔が思い浮かんだ。
まったく……あいつめ。
その日、長崎はいつもと同じように、地下の隠し部屋で成人雑誌を読みふけっていた。
時間をつぶす方法を、彼はこれ以外に知らなかった。
ドアが開き、妻の伸江が顔を覗かせる。
「あなた、電話よ」
「誰からだ?」
「黒川さん。なんだか声が震えていたけど」
「まさかあいつ、ドジを踏んだんじゃねえだろうな」
長崎はそう口にしながら、雑誌を床に放り投げて立ち上がった。
埃の積もった階段を上り、はずしてあった受話器を手に取る。
(1986年1月8日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ