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電脳戦艦アゴスト 1-22
「あの子、本当にすごく頭がいいですね。メンテナンス端末経由でってのは目からウロコでした」
「そう?」
記録係の男性警察官が友莉亜に話しかけるが、友莉亜はまったくもって予想通りだったわよ、と言わんばかりの反応をする。
「そう……って……え? なにかありました?」
「頭がいいのはもちろんわかってるけど、注目しなきゃいけないのはそこじゃないわよ? 前家くん、明らかに不自然なこと言ったもの」
「不自然? ……すいません何のことだか……」
記録係はゆっくりをあたりを見回しながら考えを巡らせるが、思い当たるフシがない事を伝えた。
「システム乗っ取り方法が直接配線にアクセスしたのか、メンテナンス端末経由で行われたのか、それともぜんぜん違う方法なのかはまだわからないけど、おそらく犯人はあの子」
「ええっ!」
記録係は心底驚いて大きい声を上げてしまった。友莉亜は目を細め、言葉を選ぶように説明する。
「あの子、二つ目の可能性としてメンテナンス端末を乗っ取って、システムに繋いだ時に自動的にプログラムが走るようにしておいたのでは、って言ったわよね」
「あ、えっと……ああ、はい、そうですね」
記録係は聴取ログを振り返って、画面を見ながら答える。
「何でそんな一手間を経由するの?」
「え? 一手間? ……何でって、犯人がそうしたっていう仮説の話では……?」
「そう、仮説。仮説だからこそ、その一手間が余計よね? メンテナンス端末を乗っ取ったっていうのは。だって、仮にメンテナンス端末を使って犯行が行われたという話をするのなら、最初に疑うべきこの事件の容疑者は『メンテナンスしに来た業者、本人』じゃない?」
「……あっ……あっ!」
「でしょ? 端末を使ってる人間を疑わずに、端末が誰かに乗っ取られてその端末がシステムに接続されたって、仮説として変よね。業者本人が犯人というほうがロジカルで自然でしょ」
記録係は手を顔にあてて呆然とする。
「つまりあの子は無意識に業者を容疑者から外したの。無用なワンクッションを置いたのよ。理由は単純。業者が犯人でないことをわかっているから、よ」
「なるほど……それを聞き出すために最初に『あなたが犯人ならどうする?』という質問を投げたわけですか……」
「そういうこと」
「はー、やっぱり噂通り凄いですね……流石です……。
…………ん? いや、ちょっとまってください。だとしたら順番がおかしくありませんか? 一番最初の質問で『あなたが犯人なら』って聞いてるわけですから、その前からあの子が犯人じゃないかって目星をつけてることになりません?」
友莉亜が「おっ、よく気づいたわね」と、多少驚きの声を出し嬉しそうにその説明をする。
「前家くんがあっちの会議室で身代金の金額聞いたこと覚えてる?」
「え、ああ……。そうですね。そうでした」
「あの時『合計でいくら』って言ったのよ」
「……ええと……?」
記録係が、ほんとカンが鈍くてすいませんといいたげな申し訳ない顔で友莉亜の言葉の先を促す。
「その時点では私達からは情報として『身代金を要求されている』としか言ってない」
一呼吸置いて記録係の頭が整理されるのを待ち、再び話し始める友莉亜。
「犯人が『人質一人辺りがいくら、合計いくら』という要求をしているのか、それとも単に『いくら用意しろ』と要求しているのかは伝えてないって事。
でも前家くんはいきなり『合計でいくらですか?』って聞いてきた。つまり脅迫状に『一人いくらで合計いくら用意しろ』と書かれているのを知っていた。
もちろんこれだけじゃ偶然ってこともあるから確証を得るためにカマをかけようと思って、あの子の取り調べだけ私にやらせてって言ったの。尻尾出してくれて助かったわね」
友莉亜は再度一呼吸置いて、呟くように記録官へ言う。
「さて、今回の本番はココからよ」
――続く。