ホームステイの思い出。ハンバーガーとハワイと私と。
あれは小学校六年生の頃。小学校生活最後の思い出は、地元野球チームのメンバーと行くハワイへのホームステイ。アメリカでの「9・11」以降、その行事はなくなってしまったらしいけど、当時は誰もが待ち望む一大イベントだった。
生まれて初めての海外。正直飛行機の中や到着後どこへ行ったのか記憶がないけれど、迎えに来てくれたホストファミリーの車の中、時差ぼけの影響で居眠りしてしまう僕をクスクス笑っている光景が、ハワイでの一番初めの思い出。
ホストファミリーはとても優しく歓迎してくれて、グラウンドゴルフやゲームセンター、日本食レストランなどへ連れて行ってくれた。色々なものを僕に買ってくれたし、色々な観光スポットへ連れて行ってくれた。
「空気に香りがついてる」
と感じるくらい、海外の衝撃は僕にとって大きかった。全てがキラキラ輝いているように感じた。船のデッキから見るイルカに感動したし、どこに行っても音楽が絶えない。ディナークルーズではみんなでダンスをした。買い物へ出かけるときは日本では目立ちまくりの派手なアロハシャツなんか着ちゃって。僕はハワイを存分に楽しんでいた。
ただ一つ、食事面を除いて。
今でこそ外食も多くするし、様々な料理も楽しめることができるけど、当時の僕にとってハワイの料理はボリューム満点どころではなかった。何もかもがこってりかパサパサに感じた。飲むもの全てが甘かった。容器や商品イメージから味を当てようと試みるも、何度も予想は裏切られた。
普通の水が飲みたかった。味噌汁が飲みたい毎日だった。カリカリ梅やあったかいお茶など、とにかく日本を感じるものを食べたくて仕方なかった。それでも僕の胃の中へ入ってくるものといえば、チョコレートミルクだったりテカテカのステーキ、甘いお茶や炭酸ジュースばかりの毎日。
3日間続けて朝食にポテトフライが出てきたあたりから僕の体調は急激に下がり始めた。
お腹が痛い。ありがたいけど、正直外食したくない。外食どころか外出したくないと感じ始めていた。たった一週間のホームステイなのに、後どのくらいで家に帰れるのかな・・・なんて弱気な気持ちになっていた。
何気なく時計を見る。時差ぼけもあるし、時間の感覚が鈍ってる。
「今何時だろう?」
vividすぎる時計の背景のせいで、目の悪い僕には時計の針が見えない。今何時かわからない閉ざされた空間の中、精神的にもだんだんと苦痛になってきた。
「Let's go shopping!」
当時、英語は「Hello My Name is 〇〇!」しか話せなかった僕にも、ホストファミリーの息子たちが笑顔で何を言っているのか僕にはわかっていた。
もうやめてくれ。朝からソーセージもフライドポテトも食べたくない。ゆっくりと家でお茶漬けを食べていんだ。けれどもなぜか僕は笑顔を浮かべていた。
それは当時の僕の悪い癖で、相手を好意を思うと断るということができなかったのだ。
「Good! Let's go!!」
連れ出されてしまった。
しばらくドライブすると大きなショッピングモールについた。人生初めてのショッピングモール。体調も気分も悪かったけど、服屋にCDショップ、アイスクリームショップにおもちゃ売り場がどこにでもあるショッピングモールには、子供なりに気分もときめいていたんだろう。少しずつ気分も明るくなってきたし、またハワイを楽しめそうと思っていたそんな時に、
「Mom! ハンバーガー食べたいよ!」
と唐突に息子言い出した。高カロリーだからいつもはダメだけど、今日はゲスト(僕)もいるから特別だよ!と言っていたかはわからないが、そのようなやり取りを見ながら僕の気分はまた下がり始めていた。
歩き回って少しお腹がすいてきたとはいえ、油たっぷりの食事にはいい加減飽き飽きしていた。気分は乗らなかったけど当然断れない。
そして注文の時・・・
英語が話せない僕の代わりに優しいDadが気を使って注文してくれる。メニューには数字がふってあったから、
「ナンバー2 ! (※2番はチーズバーガーでした。)」
と笑顔で言うと、Dadは何かずっと言ってる。
「ajsoifjiojg0a ijiorqioj lsjfgojs oisjfgj ??????」
「(えっ?)2! 2! ナンバー2!」
「oisjfgj 2 ??????」
「2! 2! 2!!!!!!」
気分が悪くなってきた僕は、少し投げやりになりながらもトゥーーーーー!! トゥーーーーー!!!って言ってた。
ホストファミリーたちは満面の笑みで僕を見ている。感心しているようだった。僕は「海外の人は本当に歯が白いんだなぁ・・・」なんて感じてた時、異変に気づいた。
どデカイチーズバーガーセットが2個もやってきた。
内心ヤバイと思いつつも、僕はいつもの癖でホストファミリーたちの顔を見てニコリとしてしまった。お腹は今にも破裂しそうだった。
ホストファミリーは、はち切れんばかりの笑顔で僕がチーズバーガーを食べるのを嬉しそうに見ている。
遠い日本からはるばる来て、幸せそうにハンバーガーを食べている日本人。
なんて思っていたかどうかは知らないが、そんな空気の中、僕は決して「食べきれない」なんて言えやしなかった。