7inch盤から振り返る今年の音楽とあれこれ
今年もあとわずかになった。
ライターや音楽好きな人がよく今年のベストとかあげたりしているが、自分は新譜旧譜問わず色々聴いていて、新譜だと思ってたものが実は前年やそれ以前に出てたりとわけるのが面倒になり、これまでそんな話題はあまりしなかった。
しかし、今年を振りかえるのも兼ねて一度くらいやってもいいかなと思い、そんなに多くもなくチェックしやすい7inchでよかったものをいくつかピックアップし、それに関連する作品も加えて紹介しようと思う。
ここ数年似たようなかんじで、7inchはアジアものを中心に集めたが、今年は断捨離するという知人から中南米の盤を数十枚譲り受けた他、新譜については図らずも大半が日本のアーティストのものを入手していた。
Juu / Bass Down Finis Africae / La Danza De Los Hipocampos
といいながらいきなり1枚目から日本人ではないが。アジア音楽ファンにとって今年はなんといっても、年明け早々のこちらのタイのレジェンドラッパー来日が一大トピックスだったと思うが、なんと秋にはさっそく2度目の来日もありそちらも大盛況だった。これは初来日時の物販のおまけとして入手した非売品。
この後アルバムのリリースと続くが、そちらは名盤の誉れ高くミュージシャンの中にも年間ベストに入れた人がいるほどタイヒップホップ注目の一年となった。
ちなみにGWにはカンボジアのヒップホップクルー"KlapYaHandz"も来日し(不肖ながら私も急遽飛び入りでDJで参加させて頂いた)、国内でも"SOI48" "Young-G" "MMM"によるDJチーム"OMK"が活躍するなど現行アジアンダンスミュージックが注目され大いに盛り上がった一年でもあった。
なお、カップリングは、アジアからは遠く離れるがバレアリック~アンビエント~ニューエイジ界隈では知る人ぞ知るスペインのグループ"Finis Africae"の一曲。
J.A.K.A.M. / Asian Dub Chapter.2
アジア続きで、先の"OMK"の一員である"Young-G"と"DJ KENSEI"、沖縄民謡を昇華したスタイルのDUBユニット"CHURASHIMA NAVIGATOR"らの楽曲の、"Juzu aka Moochy"こと"J.A.K.A.M."によるリコンストラクト盤。かつてのワールドミュージックブーム以来の新たな動きとして、日本発のアジア視点の作品は近年徐々に増えてきているが、"J.A.K.A.M."はワールドミュージックとのクロスオーヴァーな作品も含め昨今のダンスミュージックシーンでは先駆的なポジションにいる。
なお、本盤ではラオスの民族楽器ケーンをフィーチュアしたヒップホップのトラックだが、"OMK"は現在タイの不良(日本でいうヤンキーやギャル系の人ら的な)の若者や庶民に絶大な人気のダンスミュージック"サイヨー"を引っ提げ全国各地で話題をさらった。"サイヨー"についてはネット上でもなかなかまとまった情報がなくやはり現地で体感するのが一番なのだろうが、彼らのパーティに遊びに行くかMIX CDがあるのでそちらを聴けばその一端は垣間見れよう。
また、"CHURASHIMA NAVIGATOR"は今年観たライブの中でも一二を争う素晴らしいものだったが、この辺もアジア音楽ファンは注目すべき。
WHO ME ? & 久保田麻琴 - KICKTRACKS / 白鳥おどりREMIXES
続いてはこちら。岐阜県白鳥町(現:郡上市)の盆踊りを現代のエレクトリックミュージックにリミックスした作品。
ビートメイカー"Who Me?"との共作であるが、まさにワールドミュージックの元祖たる"久保田麻琴"の作品としてもアレンジ具合・完成度は高く、モダンで洒落た作風は個人的には眩しいが現在の民謡の注目のされ具合が実感できる1枚。
近年の"民謡クルセイダーズ"やDJユニット"俚謡山脈"の活動に続き、昨年は『木崎音頭/クラーク内藤(俚謡山脈監修)』や『越中おわら節/colorful house band』『DODOME EP/くふき』など民謡や盆踊りをアレンジした作品がいくつか発表されたが、
これらは単にポピュラーミュージックに要素として取り入れたようなものではなく、あくまで原曲をベースにした上でのアレンジやリミックス・エディット作品(その上で特にくふきはオリジナル・チューンを制作している)で、注目すべきは全てダンスミュージックシーンから出ていること。これは民謡や盆踊りの根源的な部分にマッチするところであり、作為的なブームではなく自然な流れで新たなトレンドとして取り上げられているのが面白い。
そんな現在の民謡・盆踊りが注目される中で、ワールドミュージックブームを更に遡るころ頃から地続きの活動でかねてから各地の民謡や盆踊りなどを発掘・発信してきた"久保田麻琴"とカップリングにロシアのプロデューサーによるリミックスという、ある種独自のポジションにあろう本作の受容のされ方は、シーンの今後の行方を追う上でも興味深い。
アラゲホンジ / 十万人の橋 - 秋田大黒舞
さらにこちらは、バンドながらダンスミュージックシーンと近接した活動をしているグループの作品で、DJでご一緒させて頂いた際物販で入手した1枚。同様にバンドとして民謡を演ずる"民謡クルセイダーズ"がラテン音楽をベースにしているが、こちらはアーバンなソウルやファンクをベースに民謡にアプローチするスタイルが面白い。
GRIMM GRIMM / KAZEGA FUITARA SAYONARA REMIXES
次はこれまでの流れからガラっと変わってしまうが、7inchがテーマということで。
"goat"や"YPY"など、今や世界をまたにかけて活動をする"日野浩志郎"主宰のレーベル"bird friends"より。
これまでカセットオンリーでリリースを続け、音楽ファンの間ではカセットテープレーベルとみられていたと思うが、ここにきてそれ以外のフォーマット、しかも7inchで出たということで、おおっと思ったが兼ねてよりカセットテープだけにこだわっているわけではないようなことを話していたので、ついに来たか!というのが最初の感想だった。
が。実はこれを書いていて気付いたが、品番が02でおやっと思い調べたら以前出ていた"YPY/Don't DJ"のスプリット盤が01だった。ラベルにクレジットがなく気が付かなかった...
話がそれたが、このアーティストを取り上げたのはさすがのセンス。もとより、"Jerry Paper"の作品をリリースしたり、課外活動として最近では"千紗子と純太"(CASIOトルコ温泉&NECO眠る)のサポートをするなど、綿密なグルーヴと時に荒涼としたビートを繰り出す自身の作風とは異なる独自のポップセンスを兼ね備えレーベルにもしっかりと反映されている。そんな"bird friends"からの本作、"GRIMM GRIMM"はロンドン在住の"Koichi Yamanohara"によるアシッドフォークの進化系ともいえそうなエクスペリメンタル・フォークユニットで、英国人のある種の湿っぽさとは異なる日本人ならではの憂いを表現したような独特の世界観を体現しているが、"My Bloody Valentine"の"Kevin Shields"のレーベルよりリリースされていた楽曲のリミックスである。
それぞれ"Klein"と"KILLER BONG"によるものであるが、個人的には、"Klein"のヴァージョンが某クンビアユニットのトラックとのミックスでDJで度々お世話になった1枚でもある。
asuka ando × BUSHMIND / Kiss With You EP
この曲を聴くまで彼女の音楽は聴いたことがなかったが、たまたま聴いたこの曲はつい何度もリピートしたくなる不思議な魅惑があり思わず入手した。意外な取り合わせのお二方によるコラボ作品というのも注目で、残念ながらリリースパーティーは見逃したがチャンスがあれば次の機会に是非観てみたい。
最後に番外編として音盤リリースはされていないが、沖縄のこのラッパーの作品も素晴らしかったので紹介しておきたい。
GACHIMAF - ASHIBIJIMA
ファンキーレゲーのビートにのってほぼ全編ウチナーグチ(沖縄方言)を用いフロウを繰り出す姿は渋い。これはまさにアジア音楽としての琉球音楽の最前線の一つだ。
そんなこんなで、来年もコレはと思うものをマイペースにチェックしていく予定。みなさま、良いお年を。
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