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かばん だと言い張る男があらわれた
正直、これを書こうかどうしようか、1日迷った。
こんな突飛なことを書いてしまって、大丈夫だろうか?と。
大学時代に書いた「かばんのつむじ」という小説を、コロナ禍の戯れにアップした。自分が「かばん」だと言い張る女の子が出てくる話だ。
そんな小説をアップしてしまったせいか、あれから1か月経ち、私の家には今、自分がかばんだと言い張る男がいる。
年齢はよくわからない。少年のような壮年のような。
ぱっと見は30代中盤という感じだけど、身のこなしが20代のようにしなやかだったり、日に焼けた顔でにっこりと笑うと目じりに深めの皺が刻まれて、あれ、もしかして40代かもなぁ?と思ったりもする。
話をしていても、少年のような直接的な表現で見たものや感じたことを話すこともあれば、急に私の知らない哲学者の言葉を引用して論理的に話したり、情緒的な言葉を淡々と、他人の詩を朗読するように語りだしたりもして、とらえどころがない。
そして、「君はどう思う?」と聞くのだ。
いや、「君」と呼ばれたのかわからない。「理恵さん」だったか「黒井さん」だったか「あなた」だったか。
そもそも彼が自分自身を、一人称でなんて呼んでいるのかまったく覚えていないのだ。昨日、あんなに話したのに。
僕、だったか、オレ、だったか。
どちらもしっくりこないし、どちらもしっくりくるような。僕とオレの中間くらいの一人称だったような気もする。
ただ、立ち上がるときはいつも、パン、と左脚の太ももを払うようにたたくのは印象に残っている。左利きなんだろうか。
とにかく、彼が世界中を旅してきた話をよなよな聞いていたら、私は昨日、お茶のお稽古だったのをすっかり忘れてしまっていて、今日、先生に平謝りのLINEを入れた。まったく。
彼は私のところに来る前、天塩川でカヌーに乗っていたらしい。居心地がよくて、つい長居してしまったと。
「さあ、あなたは、ぼくをどこにつれていってくれるの?」と言われたわけではないが、くるくるっと表情豊かに動く目が挑発するように催促してくる。でも、チョコレート色の瞳の奥は「どこでもいいよ。むしろ、ずっと家にいてもいいよ」とやさしく語っている。
こういう男と長い時間、一緒にいてはいけないと数多の恋愛小説や、映画や、ドラマが言っているが、数多の恋愛小説や映画やドラマと同じで、こういう男は性別を超えて人を惹きつけて、つい、そばにいたくなるし、そばにいることにそこはかとない優越感を与えてくれる。
事実、夜も更けて、仕方がないからここに寝なよ、と私のベッドの傍らを促し、電気を消して、ふぅっとため息をついて目を閉じたら、思わず顔をうずめたくなるような、安心する彼の匂いが部屋に漂い、鼻腔をくすぐるのだ。
あぶないあぶない。
1週間だけ。
それ以上ここに留まられると、本当に、この気持ちから逃れられなくなってしまう。
あなたはどんな場所でも、にっこりと笑って美味しいコーヒーを淹れてくれるだろうけど、一応、私が大事にしている場所と人のもとへ、セレンディピティをまとわせて、連れていきたいと思う。
まずは、ここから。
私が、7月からオープンする新しいスペースnaniroBASE&Lab. 。
ここで私はこの道北地域のノルディックスキーに関する大事な執筆をしながら、彼と一緒に他愛もない話をして誰かが来るのを待ってみよう。
フリーコーヒー。未完成のnaniroBASEで。(6/20(土)13時~19時くらい)
https://www.facebook.com/events/2878428048946549/
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