「架空のボーカロイド」を「UTAU」化させたら「ボーカロイド」を名乗ってはいけない話
初稿:2024年5月18日
編集:2024年7月18日
数日前から「架空のボーカロイド」をテーマとしたキャラクターデザインがSNS上で流行っている。
そしてその流れでUTAU音源化を目指すものが現れ始めている。
そこで、改めて今回はボーカロイドとUTAU等は異なる存在であることを書いていこうと思う。
結論
結論から述べると、VOCALOID(ボーカロイド・ボカロ)はヤマハ株式会社(以下ヤマハ)の登録商標である。
つまり、ヤマハの許可無くVOCALOID(ボーカロイド・ボカロ)を称する製品や配布物を出してはならない。
よって、架空のボーカロイドはUTAU音源として配布する際、VOCALOID(ボーカロイド・ボカロ)と名乗ることは出来ないのだ。
参考リンク
「ボカロ」は普通名称ではない
そもそもボカロは普通名称ではない。
昨今、ボカロという言葉が独り歩きして音楽ジャンル名として扱われることが多く、実際使われる場面も多いが、下記引用の通りヤマハはボカロを普通名称ではないとしている。
ではボカロっぽいものはまとめてなんて呼べばいいのかという話だが、「歌声合成」と呼ぶのが望ましいと感じる。
どれが「ボカロ」でどれが「not ボカロ」?
歌声合成をあまり知らない人は、例えば以下のキャラクター名を聞いた時にボカロだ!と判断するだろう。
初音ミク
重音テト
可不
Megpoid(GUMI)
しかし実際分類すると、この中で正式にボカロとしてリリースされたのは初音ミクとMegpoid(GUMI)のみである。
初音ミクは2007年8月31日にクリプトン・フューチャー・メディアから「VOCALOID2対応ライブラリ」として発売。
現在はV4Xまで発売されている。
Megpoid(GUMI)は2009年6月26日に株式会社インターネットから「VOCALOID2対応ライブラリ」として発売。
こちらは現在V6(AI)まで発売されている。
つまり、ヤマハの開発したソフトウェア・VOCALOIDに対応する公式ライブラリが真のボカロなのだ。
参考リンク(VOCALOIDライブラリ一覧)
ちなみにどちらもVOCALOID以外の歌声合成
(初音ミクはPiapro Studio for NT、GUMIは後述のSynthesizer V)としてもリリースされている。
では残りの2つはなんなのか?と言うと、VOCALOID(ボカロ)とは別の製品・配布物である。
重音テト
まず重音テトだが、初出は2chVIP板の釣りスレ、つまり架空のボーカロイドだったのである。
(この話自体は有名だと思うのでここでは参考リンクのみに留める)
参考リンク
その後重音テトはUTAUライブラリとして無料配布された。
現在は公式サークル「ツインドリル」の元管理されている。
UTAUは飴屋/菖蒲氏(飴屋P)個人によって開発された無料の歌声合成ソフトウェアである。
もちろんVOCALOID(ボカロ)ではない。
UTAUの最大の特徴は、誰でも自由にライブラリを作ることが出来るという点である。
そのため、歌声合成マニアから一次創作者まで、幅広い層のユーザーが今でも多く存在している。
そして誕生から15年後の2023年4月27日、株式会社AHSより「Synthesizer V専用歌声データベース」としてAI重音テトが発売された。
これにより晴れて重音テトは正式に商業系歌声合成の仲間入りを果たしたのだった。
Synthesizer VはDreamtonics株式会社が開発する歌声合成ソフトウェアであり、もちろんヤマハが手がけるVOCALOID(ボカロ)とは別物である。
参考リンク
可不
可不はKAMITSUBAKI STUDIOに所属するバーチャルシンガーの「花譜」の歌声を基に作成された「CeVIO AI ソングボイス」である。
CeVIOは株式会社テクノスピーチを始めとする複数企業からなるプロジェクト「CeVIOプロジェクト」によって開発された音声合成・歌声合成技術である。
よってVOCALOID(ボカロ)ではない。
そもそもCeVIOはVOCALOIDと歌声合成の仕組みが異なる。
VOCALOID(〜V5)がAI進出するまで音声波形接続合成を採用しているのに対し、CeVIOは初めから統計的音声合成を採用している。
参考リンク
別のもので例えるとわかりやすいかもしれない
例えばこの記事の読者は現在「スマートフォン(スマホ)」で閲覧していると仮定しよう。
その機種名はなんですか?と問われた時、なんて答えるだろうか。
おそらく多くの人は「iPhone」とか「Google Pixel」とか「GALAXY」とか答えるだろう。
iPhone以外をまとめてAndroid呼びするかもしれないが、少なくともiPhoneと呼ぶことは無いだろう。
実は歌声合成をまとめて「ボカロ」呼びすることは、この場合スマホ全般をまとめて「iPhone」呼びすることに相当する。
「ボカロ」が「スマホ」に相当するのでは?と思ったかもしれないがそれは違う。
上述の通り、「ボカロ」は登録商標であり普通名称化はされていない。
それに比べ「スマホ」は普通名称化されているため誰でも使うことができ、同時に商標として登録することも出来ない。
従って、「ボカロ」という言葉を「スマホ」のような感覚で扱うことは出来ないはずなのだ。
広義のボカロ
とはいえ現実問題、歌声合成というジャンルは世間では「ボカロ」で浸透してしまっている。
歌声合成の楽曲制作者を「ボカロP」と呼び、歌声合成を用いて作られた楽曲を「ボカロ曲」と呼ぶようになっている。
ニコニコのタグを見ても、UTAU動画にVOCALOIDタグがついていることはしばしばある(※)。
もはや我々歌声合成オタクにとって広義の「ボカロ」という単語は無くてはならない存在となっている。
この先ヤマハがどう動くかはわからないが、あくまで現在の広義のボカロ呼びは非公式であるということを念頭におき、極力他社製品はボカロ呼びしないこと。
そしてくれぐれもヤマハの正式な製品と誤認させるような内容の投稿や、VOCALOID(ボカロ)と称してUTAU音源を配布することはしないように気をつけよう。
※追記
ニコニコ内でUTAU動画にVOCALOIDタグが付けられるようになった流れを説明してくださった方がいましたのでポストを紹介します(許可はとっています)。
結構長いので以下リンクから直接Xを開いて閲覧することを推奨します。
おまけ
実際にUTAUからボカロになった例
折角なのでUTAUからVOCALOIDになった実際の例を紹介しよう。
マクネナナ
Mac派の声優・池澤春菜氏が雑誌企画内で立ち上げたプロジェクトから生まれたキャラクター「Mac音ナナ」が原型。
2008年当時はまだVOCALOIDがMac非対応だったことから、AppleのGarageBand向けボーカル素材として発売された。
そのため実際はUTAUでは無いが、一応UTAUとしても使用可能だった(原音設定テンプレが存在した)ので紹介。
プロジェクト発足から5年後の2013年、遂にVOCALOIDがMacに対応し、「マクネナナ」として正式にボカロとなった。
現在は「VOCALOID4対応ライブラリ」として発売中。
カゼヒキβ・ゲキヤクβ
UTAU音源提供者であるくるくる数字氏が配布しているUTAU音源「カゼヒキ」と「ゲキヤク」が原型。
こちらはヤマハが期間限定で設立した研究スタジオ「VOCALOIDβ-STUDIO」が研究中のDAWプラグイン「VX-β」で使用可能だったライブラリである(2024年3月31日をもって終了)。
UTAU版とは異なり、βはAIシンガーとなっている。
カゼヒキV・ゲキヤクV
前述のカゼヒキβ・ゲキヤクβが2024年7月18日よりVOCALOID6専用ライブラリとして正式に発売開始となった。
式狼縁 AI
動画制作会社である「株式会社MUGEN」が運営する山形応援キャラクター。
UTAU以外にもDeepVocalやA.I.VOICEなど幅広く進出していたが、2024年4月24日遂に「VOCALOID6対応ライブラリ」として発売され、正式にボカロの仲間入りを果たした。