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ある週末サーファーの記録050 サンミゲル 4
サンミゲル。サーフトリップ開始すぐに見つけた最高の波。私も辻もたいして乗れなかった波。
不調の原因に心当たりはあった。久しぶりの波乗りで自分のコンディションが万全ではなかった。持参したボードが波に合っていなかった。などなど。
ただ、結局のところなぜ上手く乗れなかったかはよく覚えていない。一つ言えるのは、初めての波はそんなに簡単ではないということ。何回か入ればそこの波のクセも掴めるはずだった。
しかし私たちにはそのポイントに通うという考えはなかった。残り5日ほど同じポイントでサーフィンするほどオレたちは保守的じゃない。この先にサンミゲルより素晴らしい波が人知れず割れているポイントがあるかもしれない。時間が許す限り行けるところまで南に行ってみよう。話さずともお互いそんな気持ちだったと思う。
サンミゲルからエンセナーダの町を縦断。間も無く町を離れるといよいよバハ・カリフォルニアらしい荒涼とした風景が広がっていた。サンミゲルのことを教えてくれたサーフショップでは他のポイントの情報はなかったが、私たちはネットで調べていたいくつかのサーフポイントを求めて国道1号線を南に進んだ。
いずれのポイントも国道を右折して入るダートロードを進んだところにあった。私たちは国道、ダートロード、ビーチ、ダートロード、国道の行程を繰り返してポイントからポイントに渡っていった。
どこも無人の波と玉石の海岸だった。どのポイントでもサーフィンはできそうだった。でもサンミゲルほどの波はなかった。
諦めてそのうちの一つのポイントに入ることにした。一人だったらまず入らなかっただろう。沖にも岸にも誰もいないポイントだ。順番で入ることにした。まずは辻が行く。私は海岸の岩に座り、2人以上でのサーフトリップでしか持ってこないビデオカメラを構えた。
ボードを脇に抱えおそるおそる岩から岩に足を移していく辻。きょろきょろと左右に目線を振りながら最適なエントリーポイントを探す。波打ち際でタイミングをはかる。ちょうど良い波が来た。ジャンプイン。
彼はうまく無人の海に漕ぎ出した。私はカメラを構えながら、おかしなカレント(潮の流れ)がないか注意深く辻のポジショニングを見守る。波待ちの体勢になってからもなかなか乗れる波が入ってこない。サイズはあるのに長くは続かない波ばかりだ。
波のピークを探してパドリングで移動を繰り返す辻を撮影していたところ、フレームに黒い物が映り込んできた。目を凝らしてみた。アシカだった。いや、アシカか?オットセイかアザラシだったのかもしれない。その彼又は彼女は水面から黒い顔だけを出して音もなくゆっくりと辻の方に向かっている。それには気づかず沖を向いてパドルしている辻。その背後にアシカかオットセイかアザラシが静かに忍び寄る。それはかなりシュールな光景だった。
害はなさそうだったが、私はそのポイントには入らないことにした。