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ある週末サーファーの記録049 サンミゲル 3
翌朝向かったサンミゲルはロサリートから国道1号線を南に約100km下ったところにあった。まだアメリカ国境からはさほど離れていないが、南に向かう者にとっては最後の大きな町であるエンセナーダ(Ensenada)。そこを離れれば1000kmほど大きな町には出会わない。そのエンセナーダの町の入り口にあったのがサンミゲルというビーチだった。国道を外れて小道を下っていくと不意に海が視界に飛び込んできた。
群青の海には綺麗に割れるライトの波があった。リーフブレイク特有の規則正しいホローな(掘れた)波だ。沖からムネ〜カタくらいの良い波が入ってきている。上手いサーファーなら何度も鋭角なターンが入れられそうな長い波だった。波待ちの場所には数人のサーファーがいるのみだ。
手前のビーチに目を落とすと、砂浜はなく波に洗われて丸くなった大小さまざまな岩と石がびっしりと海岸線を縁取っていた。さて、どこから入水すべきか。
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私と辻はこの種の海岸を「玉石の海岸」と総称する。強い波が打ちつける岩場の海岸からのエントリーはいつも嫌な緊張感がある。濡れた石で滑ったり波に足を取られて転んだりすると、必ずといって良いほど、自分またはボード、あるいはその両方が傷つく。
大きめの岩を選んで慎重に波打ち際まで歩を進める。どこまで歩いて、どこからパドリングを始めるか。その判断はなかなか難しい。これ以上先に海面から出ている岩はないかと思われるところで暫し波の周期を見定める。次に大きめな波が打ち寄せて水位が上がった瞬間に覚悟を決めてボードとともに迫り来る波に向かってジャンプする。入水後は一刻も早く岩場から逃れるように必死にパドリングする。手を深く水に入れると海底の岩にぶつけるかもしれないので、できるだけ海面近くを浅く素早く漕ぐ。水位が足りないとボードの底面に付いているフィンが海中の岩に「ガコッ」とぶつかり、ボードかフィンが傷つく。
良い波のポイントほどこうしたトリッキーな入水が求められる気がする。
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サーファーあるあるともいえる岩からのゲッティング・アウト失敗。その苦い経験を何度も経て、安全に沖に出られる方法がある場合は、遠回りでもそちらを選択していた。ただ、今回はその冷静な判断のもとに代替手段を探るには目の前の波が良すぎた。取るものもとりあえずウェットスーツを着て岩の浜に向かった。
はやる気持ちと転びたくない気持ちが拮抗する。首尾よく先頭の岩に辿り着き波を待つ。寄せる波にあわせてジャンプイン。幸い水中に隠れた岩にフィンがぶつかる嫌な感触はなかった。
岸から離れる流れに乗ってしまえばしめたものだった。数人のサーファーが波待ちしているラインナップに容易に到着して自分の波を待った。次から次に「A」の形をした波が現れる。その波は岸から見たとおり極上の波だった。
ただ結論からいうと、この日は上手くは乗れなかった。