見出し画像

ある週末サーファーの記録048 サンミゲル 2

 メキシコ側の国境の町はティファナ(Tijuana)という。私たちはティファナ空港近くのレンタカーの営業所にいた。ティファナはバハ・カリフォルニア半島で最大の町で、それなりに大都会である。バハ・カリフォルニア半島は南北に1200km以上延びているが、半島全体の人口の半分近くがこのティファナ都市圏にいるという。他の主要都市もアメリカ国境近くにある。すなわち、アメリカ国境から離れて南に向かうと人口密度はグッと下がって、ぽつりぽつりと町がある以外は、なかなか人に会わない原野というか砂漠が広がっている。

 岬の突端にぽつんと佇む灯台。荒野を走る無人の一本道。そういう「こんなところまで来てしまったか」と思わせる閑寂な景色を見ると、なぜか私の心はザワザワとしてくる。バハはそういった「地の果て」感が好きな自分には堪らなく旅情を誘う半島だ。南端から北上した前回。北端から南下する今回。半島の真ん中はどんな風景が広がっているのか。そぞろに見てみたくなる。

 ただし、今回のサーフトリップは1週間のみ。旅情も良いが、良いサーフポイントを探すことが先決だ。まずは情報収集だ。とりあえず、レンタカーを借りてティファナを脱出、南下して海沿いのサーフショップに向かおうと辻と話していたところだった。「2人と2枚のボードが乗る一番安い車を貸してくれ」とレンタカーの店員に伝えた。
 「普通ならこの小さい車が一番安いけど、ちょうど今ならこの車を格安で貸せるよ。そのかわり現金前払いね」
 といってなぜかJeepの高級SUVが提案された。明らかに訳アリなオファーだが、コンパクトカーより断然安かったので、若干不安を感じつつもこちらを借りることにした。多少のトラブルがあってもこちらは2人だ。なにかあったらネタになるかなぐらいの軽い気持ちでディールに乗った。

 レンタカーの走り出しは順調。まずは太平洋岸方面に向けて国道1号線を南下する。数十分走ってロサリート(Rosarito)という海辺の小さな町に出た。

 この日は既に夕方に差し掛かる頃合いだったのでこの町で宿を探すことにした。辻との二人旅では事前にホテルを予約するようなことはなかった。他の旅行の時にはネット予約するが、彼とのサーフトリップではどこでサーフィンをするかが決まっていないから宿は決められないのだ。そのくせ、ホテルが決まっていない日は、昼を過ぎたあたりから少し不安になってくる。

 首尾よくロサリートのメインビーチの近くのホテルに空きを見つけてチェックイン。その広いビーチの波は特筆するものではなかったが、その日に行ったサーフショップで教えてもらったのが「サンミゲル(San Miguel)」というサーフポイントだった。

いいなと思ったら応援しよう!