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ある週末サーファーの記録044 オーシャンシティ 4

 こうして、波がある限りは週末にオーシャンシティに通う生活が始まった。往復で約7時間、総移動距離は600km。それは東京からだとだいたい青森までの距離らしい。早朝家を出ても帰宅するのはどうしても午後、場合によっては夕方近くになってしまう。一日がかりだった。

 また、特に夏場は千葉や茨城ほどコンスタントに波は立たないし、冬場の寒さは尋常ではない。ある日海から上がって急いで着替えを済ましてボードをしまおうとしたら、ボードの表面に残った水分が既にバキバキに凍っていたこともあった。

 それでも、私はオーシャンシティでのサーフィンが好きだった。

 行き帰りの車から眺める見渡す限りのたなびく雲、時にそこから覗く「天使の梯子」、デラウェア・メモリアル・ブリッジを昇る朝日、新緑・紅葉の間を走る一本道。車窓に流れるアメリカは雄大で美しかった。だからだろうか、毎回の長時間ドライブも不思議と苦にならなかった。

 オーシャンシティには2年間通った。長く乗れる良い波がある日は数えるほどしかなかった。ただ、ポイントはいつもほどよく空いていた。オーシャンシティのローカルたちは比較的大きめのボードでゆったりと波乗りを楽しんでいる人が多かった。よそ者の私が入っていっても、目が合えば軽く挨拶する程度で全く気にする素ぶりはなかった。当然、波取りに関するストレスもほとんど無かった。

 私は日本から持参した普通のショートボードに加え、現地で買った短いソフトボードをいつも海に持って行っていた。柔らかいスポンジフォームで覆われたそのボードは東海岸の小さな波によく合っていた。日本のショートボードよりもだいぶボリュームのあるその板は、回転性能は良くないが、小さい波でもキャッチでき、ゆったりとした直線的なライディングが心地良かった。

 私は数年前から毎回のセッションの評価をメモしている。◎、●、○、▲、△、✖️の6段階のレーティングによるものだ。◎と✖️を付けることは滅多にない。どころか、まずない。◎は人生で最高の波に乗れたときのために取ってあるし、ほんの数秒でも波に乗れたら✖️は付けない。それがなんとなくのマイルールになっている。

 このレーティングは波のクオリティーで点数を付ける日本の波情報アプリの採点法とは違う。完全に私の主観だ。すなわち、波のサイズ、形や長さに加えて、その日どれくらい空いていたか、天気が良かったか、体調が良かったか、気持ち良いライディングができたか、思いがけず神々しい日の出が拝めたか、崩れる波のしぶきにかかる虹が一瞬見えたかなど。要はその日自分がどれだけ楽しめたかが評価基準だ。

 あとで数えてみたら、私は合計44回オーシャンシティに行ったらしい。そのうち●(very good)の日は6回あった。●の評価が付く頻度は日本の倍だった。

 遠くて行くのがなかなか大変なポイントだからこそ、採点が甘くなったところもあるだろう。ただ、与えられた条件の中でそこにある波を目一杯楽しむ、そのことにあらためて気づけたのは悪くない経験だったのかもしれない。

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