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ある週末サーファーの記録028 レンボンガン島 1
コウスケと初めて会ったのは大学の入学式だから、もう四半世紀以上の付き合いになる。私がメキシコで波乗りにハマって帰国してから、一緒に御宿や大洗に行った。どちらかといえば、クールな男だ。初めてのサーフィンで何かしら劇的な反応があった訳ではなかったと思うが、その後20年以上、いまだに海に通っていることからも、それは彼のライフスタイルを変える出来事だったんだろう。
2005年、就職直前の1か月間私たちはバリ島にトリップすることにした。サーフィンでできることが一つずつ増えていく感覚が楽しくて、どこかで集中して練習したいという気持ちがあった。1か月毎日良い波に乗れば見違えるほど上手になるのでは。ガルーダ・インドネシア航空に乗り込んだ私たちはそんな期待に心を膨らませていた。
その期待はすぐに裏切られた。確かにバリ島には素晴らしい波があった。ただ、同時に上手いサーファーが山ほどいた。特にローカルの子どもたち。10歳にも満たないような子どもたちが、軽やかにつかまえた波をしなやかに乗り繋いで行く。彼らが波を乗り損ねることはないため、私たちには乗る波が全く残っていない。この状況には相当フラストレーションが溜まった。
良い波があっても乗れなければ、むしろもどかしさばかりが募る。このままではわざわざバリまで来た意味がない。どこか練習に打ち込めるところはないか。
バリで一番賑やかなクタビーチには、やたらと日本語の上手いローカルのサーフガイドたちがいる。だいぶ前に流行ったような日本の一発ギャグを良く知っていて、呼び止められると思わず足を止めてしまう。そのうちの一人、「マルボロ」というニックネームのガイドから、バリ島から船で30分ほど行ったところにレンボンガンという小島があり、バリからのショートトリップの目的地になっているということを聞いた。彼が言うには、クタビーチほどは混んでいないという。バリ島を拠点にするよりいっそレンボンガン島に拠点を移してしまおうか。サングラスというよりグラサンをいつもかけているマルボロと話してそう思った。ちなみにマルボロの口癖は「オッケーボクジョー!」で、タバコは吸わない。
4人も乗ったら一杯の小船にコウスケと乗り込んで一路レンボンガン島に向かった。
レンボンガン島はレンタルの原付で2時間もかからず1周できてしまう小さな島だ。バリ島からの小船が接岸する穏やかな浜辺はターコイズブルーの水をたたえる。天草の養殖が盛んな長閑な漁村だ。
島に上陸して間も無く、その浜辺を見下ろす小さなホテルにチェックインした。オーナーはクリスというオーストラリア人の元ロングボード国内チャンピオン。オーストラリアからレンボンガン島に移住してきたその豪快な大男は、自分なりの理想のホテルを建て、主にサーファーに部屋を貸していた。
確かにそのホテルはサーファーにとっては夢のような場所だった。部屋を出るとハンモックがかかるカウチがあり、その先にはプールがある。朝方たっぷりサーフィンをして疲れた体でハンモックに揺られながら、あるいはプールに浸かりながら、ボーッと美しいターコイズ色の海を眺める。波があるときはずっと沖に小さいサーファーたちのライディングが見える。プールの脇には小さなバーカウンターがありいつでもキンキンに冷えた「ビンタン(Bingtang)」ビールが常備されている。
2週間ほど、この小さいけれど夢のようなホテルでサーフィン合宿。帰国する頃には華麗なライディングをしているはずだ。イメージトレーニングはバッチリだった。