「第2波」の再検証・本当に怖いのは国外からの流入?
先に結論を書いてしまいますが、今回の記事は、国内で第2波が発生する危険性よりも、海外から流入する感染者によって感染が広がる可能性のほうが怖いのでは?という話です。
前回の投稿で掲載した、韓国と日本の新規感染者数を比較するグラフを更新しました。これは日本と韓国の人口差を考慮して比較できるように、「100万人あたりの新規感染者数」にそろえて日韓の数字を比較したものです。
5月の26日あたりまでは日韓が同レベルの感染者数だったのですが、韓国では27日から急増。そこからは日本の2倍ぐらいの規模で新規感染者が毎日発生しているような感じになっています。
前回の記事でもふれたように、韓国ではナイトクラブでの大規模な感染クラスター発生をきっかけとして、そこから大手通販の物流センターでのクラスター感染、そして新しい事案としては教会(韓国はキリスト教徒が多い国です。仏教徒よりも多い)でのクラスター発生というのがありました。
なぜ比較対象として韓国を選ぶのか?ということについて説明します。まず東アジアの国ということで、日本人とDNA的な部分でかなり近いこと。
東アジアの国であっても、中国は社会主義国なので日本とは政治体制の違いが大きすぎる。
その点、韓国のほうが日本に似ている部分が多いということです。
その韓国が、このように感染拡大の抑え込みに苦労している様子を見ますと、たとえばクラスター発生の危険が高い業種を規制しきれていない可能性(日本でもホストクラブなどが営業を続けてクラスター発生した、などの事例が多く出ています)などが考えられます。物流センターの件についていえば、在宅ワークが難しいような業種での感染対策が進んでいない、という要素もあるかもしれません。そして、同じことが日本でも起こりうると考えたほうがいいと思います。
また、教会でのクラスター発生については、欧米でもかなり問題になっています。
新型コロナ、教会のミサで集団感染 独フランクフルト
欧州の中では対策がきちんとしていて感染者が少ないと言われるドイツですら、このようなクラスターが発生しています。
日本の場合は、宗教心が薄いのが国民性ですが…それでも葬儀などの場面ではお坊さんも含めて全員マスクしようというのが定着しつつあります。
ところで、上記の日韓の比較グラフの作成に際しては「国内の新規感染者数」の数字だけをグラフにしています。たとえば日本の数字については、厚生労働省が発表している日本国内の新規陽性者の数字をもとにしています。韓国の数字も、韓国の国内だけの新規感染者数です。
ここに大きな落とし穴があるのですが、この数字とは別に「空港検疫で発見された陽性者数」というものがあります。海外から羽田空港や成田空港などに戻ってきて、空港でPCR検査を受けたところ陽性となった、というパターンです。
厚生労働省のウェブサイトでは、空港検疫で発見された陽性者の情報をある程度公開しています。
新型コロナウイルス感染症の無症状病原体保有者の発生について(空港検疫)6月7日
このページの資料では、ちょうど感染者数が爆発的に増えている地域として話題になっている南米(このページにあるのはブラジルとペルー)から日本へ帰ってきた人、あと以前の記事でふれたフィリピン(ここも新規感染者数が減っていない国)からの帰国者が書かれています。
国際線のフライト本数も激減しているし、海外と日本を行き来するような人なんてほとんどいないでしょ、と思うかもしれませんが、実際は毎日このように国外からウイルス保有者が日本へ入ってきています。今後、最も注意しなくてはいけないのは、このように国外から感染者が流入してくるという要素なのではないかと思います。
冒頭のグラフを作成したときに参照した韓国のデータでは、「国外から入ってきた感染者の数」が別枠になっていたのですけど、空港検疫で発見された数だけでなく、空港をスルーして国内の都市に入ってしまった感染者の数まで別枠にしているようなのです。だとすると、韓国では国外から入ってくる感染者をしっかり隔離できていない…?そのことも新規感染者数が減らない原因の一つになっているのかもしれません。
そして日本についても、緊急事態宣言が出る前の新規感染者がどんどん増えていた時期を思い出してください。海外から日本に帰ってきた人たちが、空港で受けた検査で陽性と結果が出ていたのに、公共交通機関を使って勝手に自宅へ帰ってしまった、というような事件がたくさん起きていました。かなり強力に入国者を隔離する体制を整備していかないと、同じような事件がいくらでも繰り返されます。
現在、国際線フライトの復活や外国から日本への入国制限緩和などについては、今どんどん検討が進んでいます。
この記事で書かれているのは、タイ・ベトナム・オーストラリア・ニュージーランドという、日本よりも新規感染者数が少ないような国からの入国受け入れの検討なので、これについては緩和してもまだ安全だと思います。中国も、人口から考えれば新規感染者数は日本よりもずっと少ないです。台湾も安全です。こういった国からの入国者の受け入れを検討することは現実的です。
それよりも警戒しなくてはいけないのは、感染拡大が止まらない欧米、特にアメリカ大陸(アメリカ、メキシコ、ブラジルなど)からの入国者です。アジアの中でもインドなどは感染拡大が止まっていません。
「8割おじさん」との愛称で知られている、専門家会議の西浦教授も危険性を指摘しています。
“感染者 1日10人の入国で3か月後に大規模流行” 専門家
少し前にも西浦さんは、アメリカ政府が感染収束させるための努力を放棄して、「集団免疫の獲得」を目指す方向にシフトする可能性、そしてアメリカ政府が日本に対して、日米を結ぶフライトの再開(そして入国規制の緩和)を受け入れるように圧力をかけてくるのではないか、という可能性に言及していました。
8割おじさん・西浦教授が語る「コロナ新事実」 アメリカが感染拡大の制御を止める可能性
なぜアメリカが国際線のフライトを再開させたいのか?ということについては、おそらく航空業界(および旅行関連業界?)の利益を守るためだと考えられます。ちょっとマニア的な話になりますが、国内線に使われる短距離フライト向きな飛行機(旅客機)は、国際線に使われる長距離フライト向きな飛行機とは微妙に種類が違います。
単純な話、アメリカから日本までの長い距離を飛ぶためには多くの燃料を消費するため、燃料をたくさん積める大型の機体が必要となります。今のように国際線の便数が激減した状況では、国際線のために購入して運用されていた大型の機体が、飛ぶことなく放置されていたりして、駐機料や維持費用(整備費用)などのコストばかりが発生する状況となってしまっています。これが航空会社にとっては大打撃になっています、アメリカだけでなく日本の航空会社も同じ理由で苦しい状況です。
客単価が高い国際線フライトの欠航が続いてしまったら、売上高も激減します。CAさんやパイロットの雇用を維持するのも難しくなります。
もはやコロナウイルス問題は、医学や公衆衛生の問題にとどまらず、政治的な思惑(財界から政治への圧力もある)によって大きく左右されるような状況が世界的に見られるようになってきています。世界で最大のコロナ死者数を出したアメリカ。この国が自国の利益だけを優先して圧力をかけてきたときに、はっきり拒否することができるのか?これが日本政府の課題になってくるのかもしれません。
参考記事:
新型コロナ 政策を聞く(出入国規制)