人間みずたまり理論
雨上がりのみずたまりは、そこにひとつの世界を映し出す。
となりのみずたまりをのぞくと、そこにもまたひとつの世界が映っている。
どのみずたまりも、それぞれひとつずつの世界を持っていて、
それぞれ別に世界を映しているけれども、
それでもやはり、同じ、ひとつの世界を映している。
わたしたちはみな、みずたまりだ、と考えてみる。
わたしたちは、毎朝目を覚ますと、そこ(目)には、ひとつの世界が映っている。深く眠っていた時、世界はどこへ行っていたのだろう。わからないけれどともあれ、毎朝目を覚ますと、目のまえには世界が映る。
となりのベッドで眠るあなたは、夢の中。
あなたは、まだこの美しい朝を目に映していない。しかし、目を覚ませばそこには一つの世界が映るだろう。
雨上がりのみずたまりは、そこにひとつの世界を映し出す。
わたしたちは、それぞれがひとつのみずたまりで、
どの「わたし」も、それぞれひとつずつの世界を持っている。
同じ世界を映し出しているけれども、それぞれ別に世界を映し出す。
そして、日に照らされ、いずれみずたまりは蒸発して空へと帰るように、
わたしたちもまた、いずれ跡なく姿を消し、何処かへ去る。
それは、ひとつの世界の消失だ。
人のひとりひとりが異なる宇宙であることを思う時、
わたしは、わたしたちの存在の不思議さと、それに対する畏れの感覚に至らざるを得ません。