見出し画像

大学入学共通テスト世界史探究2025 第1問解説

はじめに

今回は2025年1月18日(土)に実施された大学入学共通テストの歴史総合・世界史探究の第一問の解説をしていきます。

新課程となり最初の共通テストとなりました。大問の一つが歴史総合からの出題となった点も注目されている今回。従来のセンター試験や共通テストと比べて、どのような違いがあるかも考えていきたいと思います。

第1問 装いの歴史

A 政治家・官僚・軍人の装い

問1 会話文中の空欄( ア )に入る語句と、( イ )に入る文との組合せとして最も適当なものを一つ選べ。

空所補充の設問は、まず空欄を含む1文を読んでください。それだけでわからない場合は範囲を広げましょう。今回の場合は、次のような文となっています。

先生:これは「トルコ帽」といって、オスマン帝国の政治家や軍人が着用した被り物です。19世紀前半に洋装化と合わせて導入されたものですが、礼拝の邪魔にならないよう、つばがついていません。
大井:オスマン帝国の近代化改革は( ア )と呼ばれますが、トルコ帽の採用は、( イ )することで帝国の立て直しを図るという、この改革の方向性を象徴しているようです。

大井さんの発言から、アはオスマン帝国の近代化改革であるタンジマートを選べばよいですね。イは先生の発言の最後にある「礼拝の邪魔にならないように」を根拠にして、「イスラームの儀礼に配慮しつつ」という選択肢を選びましょう。したがって正解は③

問2 前の会話文を参考にしつつ、下線部aを推定する方法について述べた文あ・いと、その方法で絞り込んだ時期として最も適当なものW~Zとについて、組合せとして正しいものを、後の➀~④のうちから一つ選べ。

下線部aは「図1の会談が行われた時期」です。水野さんと高橋さんの会話から、図1の会談を描いた絵には、左側には辮髪の人々、右側には洋服を着用した日本人が描かれていることがわかります。

これらの情報から会談が行われた時期を推定してみましょう。中国人が辮髪を着用しているということは、清朝が存続している時期、日本人が洋服を着用しているということは、明治維新以降だと判断できるので、明治維新から辛亥革命までの時期だと絞り込むことができますね。
したがって、あはW、いはYなので、正解は➀

問3 下線部bに関連して、中島さんは日本とドイツの交流に興味を持ち、修好条約締結のために日本にやって来たドイツ(プロイセン)の使節団の情報をノートにまとめた。ノートについて述べた文として最も適当なものを、後の➀~④のうちから一つ選べ。

選択肢とノートの情報を照らし合わせつつ、答えを吟味していきましょう。
➀ ノートから1860年代の話なので、ヴィルヘルム2世とは年代が異なり誤り。
② シンガポールはイギリスの植民地なので誤り。
③ 1861年にドイツと修好通商条約を結ぶ前の1858年にアメリカ合衆国と結んでいるので正しい。
④ 諸外国との条約交渉にあたったのは、幕府なので誤り。

したがって正解は③

問4 下線部cに関連して、洋服の素材生産に興味を持った高橋さんたちは、日本と中国における綿糸の生産量と自給率を調べて、グラフを作成した。綿糸の生産量に関して述べた文あ・いと、グラフから読み取れることに関して述べた文X・Yとについて、最も適当なものの組合せを、後の➀~④のうちから一つ選べ。

まずは選択肢の吟味から行いましょう。綿糸の生産量に関して述べた文では、綿糸は紡績機と力織機のどちらで生産されるかの知識を聞いています。紡績が綿糸生産、織機が綿布生産なので、答えはいです。
次にグラフから読み取れることを見てみましょう。グラフには国内生産量の棒グラフと自給率の折れ線グラフが示されています。

自給率は国内で消費された綿糸の量のうち、国内で生産された量の割合を示しています。
自給率が100%未満 国内消費量>国内生産量
自給率が100%以上 国内消費量≦国内生産量

Xでは「中国では、1910年の時点で、国内生産量が国内消費量を上回っていた」とありますが、1910年の自給率は50%にも達してなく、国内生産量を国内消費量を下回っているので誤り。

Yは「帝国議会開設後の10年間に、日本の国内生産量は5倍以上増加した」とありますが、帝国議会は1890年に開設されたので、1890年と1900年の間の生産量を比較すると、21から128と5倍以上増加しているので正しい。
したがっていとYが正しく、④が正解。

B 女性の装い

問5 1班は、1920~1930年代の東アジアの女性の装いについて調べ、パネル1を作成した。パネル1から読み取れることや、その背景について述べた文として最も適当なものを、後の➀~④のうちから一つ選べ。

問3と同様に、パネルと選択肢を見比べながら、選択肢の吟味をすればよいでしょう。

➀ モダンガールはロングヘア―ではないので誤り。言葉をただ知っているだけでなくて、画像としてもイメージできているかを問われています。一問一答で語句を反射で答えられるだけでなく、普段から教科書や資料集の図版を見たり、インターネットや本で調べて理解を深めることが重要です。

② パネルの2文目にある、京城や上海、天津という都市名が、独立国、植民地、租界に当てはまるか考えましょう。その際、租界の意味がつかめるかがカギです。租界は、清朝や中華民国に設けられた外国人居留地のことで、イギリスが上海に設けられたのが始まりでした。京城は日本が朝鮮半島を支配していた際のソウルの呼び名なので、植民地でもという部分もあてはまります。上海や天津は中華民国の都市なので、独立国があてはまりますね。したがって正しい文です。
③ 統監府は、韓国が保護国化された際に設置されたので誤り。韓国併合後の植民地下の朝鮮には総督府が設置されていましたね。間違えやすいので気をつけてください。
④ 1930年代には中華人民共和国はまだ成立していないので誤り。
したがって②が正解です。

問6 ムッソリーニが設立したモード公社の目標に関する記事(資料)について述べた文あ・いの正誤の組合せとして正しいものを、後の➀~④のうちから一つ選べ。

これも問5と同様。資料からは消費者がフランスびいき、つまりフランス産の衣服を購入する傾向にあり、国内の芸術家、職人、産業家、商人への支援をしなければならないとあります。そのため、あは正しいと言えます。いはフランスがファシズム体制でないので誤りです。
したがって、②が正解。

問7 パネル2(20世紀後半のイランにおける女性の装い)に関して述べた文あ~えについて、正しいものの組合せを、あとの➀~④のうちから一つ選べ。

説明文のあといは挿絵の順番、うとえはイラン革命がどのような特徴の革命だったかを選ぶものです。

2枚の挿絵を見てみましょう。挿絵1は先生や生徒の服装、国家元首の写真が伝統的なイスラームの装いであり、挿絵2はいずれも洋装です。また挿絵1は女性のみで、挿絵2は男女共学に見えます。

パネル2の説明からイラン=イスラーム革命を経て、「女性はヴェールなどで髪や肌を隠すように義務付けられ、高校までは男女別学だ」とわかるので、挿絵2はイラン革命以前、挿絵1はイラン革命後だとわかり、いが正解。うとえも「イスラームの教えに基づく共和国が成立した」というえが正解。したがって④が正解。
世界史探究の受験生にとってはイラン革命は自明でなければいけませんが、パネル2の説明文によって、イラン革命の知識がなくても解けるように問題がつくられている。

問8 メモⅠ~Ⅲの内容について、古いものから年代順に正しく配列したものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。

各メモの内容を確認してみましょう。メモ1では2015年に国際連合が採択した持続可能な開発目標について書かれています。メモ2では1985年に制定された男女雇用機会均等法について書かれています。メモ3は1960年代から70年代のウーマン・リブ運動について書かれています。これらの語句と年代から正解にたどりつきたいものです。

ちなみにどのメモにも「性別役割分業」とあり、
メモⅢ 性別役割分業を問い直す【問題提起】
メモⅡ 性別役割分業にとらわれずに…することが…努力義務となった【法制度の改正】
メモⅢ 性別役割分業が完全にはなくなっていない 【更なる改善】
というように流れが示されてはいます。ただ、ここだけで答えを出すのは難しいかなと思います。

正解はⅢ→Ⅱ→Ⅰ

おわりに

今回は、世界史探究の第一問、歴史総合との共通問題の解説でした。

知識面では多くの教科書に載っている主要な語句を出題するバランスのとれたものでした。特に世界史探究受験者にとっては、世界史探究の学習で十分対応可能だったかと思います。模試では、過度に日本史の問題や一部の詳しい歴史総合の教科書に載っている語句を細かく理解しているような難易度の高い問題が出し、平均点を落とそうとしていましたが、そうした作問は今後改めてほしいと思います。世界史探究で受験する生徒の皆さんは、歴史総合の学習をきちんと理解したうえで、世界史探究の教科書にも日本に関わる記述が多く掲載されているので、その内容をよく読んで理解してください。

一つの大問の中で文字資料、図像資料、グラフなど多様な種類の資料を出題されました。歴史総合では様々な特性の史資料を活用して歴史を学ぶ科目なので、そうした出題は好ましかったと思います。また歴史総合のみ受験者を意識して、資料を読めば、出題されている歴史的な事象の知識がなくても正解にたどりつけるような設計を目指しているようにも感じました。そのため、探究同様、大量の情報からの取捨選択する力が求められており、まず選択肢の吟味から入るのが重要ではないかと思われます。

そして、問8の女性の社会的地位や女性へのまなざしの変化の歴史に関する出題など、現代的な諸課題に関連した出題が特徴的でした。歴史総合が現代的な諸課題の形成に関わる近現代史を学ぶ科目である以上、このような課題に関するテーマ史への理解を問う出題は今後も続くと思われるので、対策を行う必要があるでしょう。ジェンダー史自体は、2023年の共通テスト世界史Bの第一問で出題されており、そのあと対策をおこなっているかどうかの差が出たかもしれません。国公立大学の2次試験の論述でも出題されており、理解が不十分な人は、資料集の特集ページなどを確認し、学習を行いましょう。

いいなと思ったら応援しよう!