トランプ・ファミリーとヴァンス妻について【全米共和党大会訪問記(2)】
(前回の記事「トランプ・ヴァンスに会場熱狂!でも、それが得票につながるのか?【全米共和党大会訪問記(1)】」はこちら↓)
https://note.com/kuro20_futaju/n/n1c04324da3b0
米大統領選の話題は、民主党のハリス副大統領がランニングメイト(次期副大統領候補)にウォルツ氏を選んだことなど、最近は完全に民主党側がメディアジャックしているように感じているが、飽きずに先月の共和党大会のことを書いていきたい。
今回書くのは、トランプ大統領候補・ヴァンス副大統領候補の家族についてである。そして、後者(ヴァンスの妻)の方がより印象深かった。
第2回 トランプ・ファミリーとヴァンスの妻
① トランプ・ファミリー
トランプ前大統領の家族、すなわちトランプ・ファミリーについてはメディアで度々取り上げられていることもあり、詳細な説明は省く。
トランプ・ファミリーについて筆者がいつものCPACや今回の全米共和党大会で感じたのは、長男・次男が頻繁に登場することにアメリカ人は違和感ないのかな?ということである。
もちろん、「アメリカ人は家族を大事にする」とか、「ファースト・レディ文化だから奥さんが出てくるのは当然」といった文化的な説明は理解している(余談参照)。
アメリカ政治でファースト・レディが重んじられて頻繁に表に出てくることに違和感はないし、日本の政治でも奥さんが登壇することはよくある(だからむしろ、トランプの妻メラニアがあまり表に出ず、今回の共和党大会でもスピーチしなかったことの方が特異的で、「移民1世として苦労しているんだな」と感じさせた)。
しかし、トランプのファミリービジネスに関することならまだしも、公職たる大統領の地位に付随する場面で、息子二人が頻繁に登場してそれぞれ数十分以上スピーチするのはアメリカの文化なのか?というのはいつも疑問に思う。
今回、長男の娘(=トランプの孫)である17歳のカイが登壇し、一部でその様子がバズったが、彼女の「メディアが報じない(トランプ)お祖父ちゃんの素の姿を伝えたい」という登壇理由の方が、息子二人よりもまだロジックが通っているように思う(それでも今後カイが頻繁に登場するようであれば違和感はあるが)。
今回の共和党大会でも、トランプ・ファミリー各人の登壇に、会場はそれなりに盛り上がっているように見えたが、自分と同じ感覚を持っているアメリカ人もいるようで、息子二人の登壇の際には退席したり携帯電話で別な作業を行っている人もチラホラ現れていた。
② ヴァンスの妻:ウーシャ・ヴァンス
そして今回、実質的なデビューともいえる、副大統領候補ヴァンスの妻、ウーシャ・ヴァンスについては、今回の共和党大会で最も考えさせられる人物となった。
ウーシャ・ヴァンスについては、既にNewsweekで「極右に人種差別的な扱いをされている」という記事が出ている。
【トランプのコア支持層MAGAに亀裂?副大統領候補バンスのインド系妻が許せないと差別発言が炸裂】
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/07/maga-2.php
しかし、筆者が共和党大会で実際に見たところ、ウーシャについては単純な人種差別よりも、もっと複雑で、しかも今回の選挙戦において致命的なポイントがあると感じた。それはウーシャのみならず、ヴァンス自身にとっても致命的になりかねないものである。
そもそも、今回の共和党大会がデビューとなったヴァンスは、登壇中には”オハイオ州”ノリ(推し)が強く、聴衆の一部であるオハイオ州関係者と身内ノリで盛り上がっていた際、他の州からの聴衆はポカンとしていた。
さらに、ヴァンス自身の”出自”は、下の写真に写っているシングルマザーの母に育てられ、祖母も銃を20丁近く持っていた、自身は海兵隊勤務歴もある白人労働者階級出身という、「ザ・『ヒルビリーエレジー』」であることは間違いない。
しかし、ヴァンスの”現在”は、イェール大ロースクールを卒業した弁護士で、妻も同窓のインド系弁護士という、完全な「グローバルエリート」なのだ。
そのヴァンスの”出自”と”現在”の矛盾をことさら強く感じさせたのが、妻のウーシャ・ヴァンスだった。
ウーシャは学部からイェール大であり、エリートの証であるローズ奨学金でケンブリッジに進学、最高位ロースクールであるイェール大のロークラークを務めたという完全にグローバルエリートの経歴であるだけでなく、今回の党大会でスピーチした際も、スタイリッシュな青いドレス(青は民主党カラー)で、知的だが少し細い声であり、他のMAGA文化圏の女性たちからは明らかに浮いていた。
それは、ウーシャがたとえ白人でも印象は変わらなかったと思う。要は人種よりも、喋り方や服装から醸し出す「グローバルエリート」臭が強かったからだ。
すなわち、他のMAGA女性のような赤いMAGAキャップ(あるいはテンガロンハット)に革ジャンであるとか、あるいはメラニア夫人のような”トロフィーワイフ”感のあるキャラでもなく、明らかに異質であった。
そして、このウーシャの知的エリートな空気感が、実はヴァンス自身も(”出自”はヒルビリーエレジーでも)”現在”はイェール大ロースクール卒で、インド系弁護士と結婚しているグローバルエリートじゃないか、と思い起こさせる作用を起こしていた。それが、MAGAを全面に打ち出した今回の共和党大会で、ウーシャが登場したときの違和感だった。
トランプがヴァンスを副大統領候補に選んだ理由の一つとして噂されているのが、「トランプが暗殺未遂に遭ったことで、自身が表舞台から去ったあともMAGA路線を継承してくれそうな人を選んだのでは」という説であるが、上記のヴァンスの”現在”の状況と、ヴァンス自身のこれまでの変遷を鑑みると、トランプ後にヴァンスがMAGA路線を継承する可能性について、正直、筆者は疑わしく思っている。
次回で、今回の共和党大会で感じた波が日本に来つつあることについて書きたい。
(第3回に続く。敬称略)
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