「MCバトル星人」
「もし宇宙からMCバトル星人が攻めてきて、地球を賭けてMCバトルで勝負を仕掛けてきたとしよう。
そんな奇特な宇宙人は、ただのバトルヘッズのお前に人類代表のラッパーを決める権利を与えてきたんだ。お前は誰に地球の命運を託す?」
いつもの彼女のフリースタイルな質問が始まった。
「エミネムに頼む。もし負けたとしても世界中から非難を受けることはないと思う。」
「お前は8 Mileをドキュメンタリーかなんかだと思って観ていたのか?武田鉄矢が中学教師を全うできると思うか?孤島で病気にかかったとして吉岡秀隆に診察してもらいたいのか?」
僕はエミネムが世界を救った後にその足で工場の仕事に向かうのを想像して笑ってしまった。
「じゃあ誰にも文句を言わせないように、世界中の人間を集めてUMBを開くよ。日本の47都道府県に合わせて、アメリカの50州でも開催すればいい。
地球の命運がかかったとなったとしたら政治の何らかの力が働いて、大阪予選にはR指定、宮崎予選にはGADORO、神奈川予選にはT-Pablowが出てくるんじゃないかな。」
「政府に反抗を示すために始まったルーツのHIPHOPが、政治の力でMCバトルをやらされるなんて皮肉なものだな。そしてお前の口から出てくる人選が、中学生みたいで私は悲しくなるよ。」
僕は最近の興行化されているMCバトルしか見たことがない。でも、それは彼女も同じだと思う。
「じゃあ君は誰のフロウ、ライム、アンサーに地球の命運を託すの?」
「私が出る。それで地球が滅亡しても絶望はしないし、この生涯に後悔はない。」
「じゃあDJは僕が務めるね。」
思い出したかのように下手くそな韻を踏み出した彼女に、地球は救えないと思う。
でもあなたのぎこちないフロウや、メモ帳に書き残しかのような不自然なライム、自分の言いたいことばかりで答えになっていないアンサー
あなたのフリースタイルの全てが好きだった。
観客判定で負けて落ちこんでいるあなたをみて、
僕は勝ったと思ったよ、これは誤審だね。って笑いながら一緒に地球の最期を見届けたかった。
「バトルビートは何がいい?」
僕は聞いた。
「お前のオリジナルビートでいいよ。」
一緒に地球の終末を迎えたい、そんな週末の昼下がりの会話だった。