ハイになんてなりたくない(下書き)

「薬ダメ絶対」と啓蒙的に訴える歌もある。
「バレなきゃいいんだよ」と露悪的に吐く歌もある。


どちらにも属さない、属したくない、属せない。
そんな呪いにも似た心情を歌い上げた曲がここにある。


女王蜂の初期の名曲に「デスコ」という曲がある。

きまるわマジカル錠剤
それこそ全くお呼びじゃないのよ
「デスコ」by女王蜂

この曲の歌詞には、女王蜂の、そして薔薇園アヴのドラッグへの確固たる拒絶が見て取れる。


ギラギラで妖艶な、そしてデカダンで刹那的な雰囲気を纏わせながら、破滅的で「歌謡」的な世界観を演じる女王蜂。

ネットでは「薬やってそう」や「ラリってないと表現できない世界観」など、理解できない世界を見た時に、このような陳腐な表現が用いられがちである。

女王蜂はそんな表現からも、そして実体としての薬物も拒絶する。


そして、最新作である『十二次元』の中に収録されている「ハイになんてなりたくない」でも、その意思は依然として、そしてより過激に、直接的に、強力に表現されている。

ハイになんてなりたくない

繰り返し繰り返し、曲中で「12回」叫ばれる、タイトルでもあるこの文句。
「ずっと」「なりたくない」
「絶対」「なりたくない」
という気持ちが、まず第一に叫ばれているのである。



アルバムを通して聴いてもらえばわかるだろうが、この曲はアルバム内でも特異な位置付けをされているように私は感じた。
曲順的に、だ。

上ばかり見ては地の底を思う
沸々と暴れてる神秘
わたしと同じ血の色をしてる
「ハイになんてなりたくない」

薬物に溺れる人々とはキッパリと一線を引き、自分は上を見続ける。そんな中でも、下で、底で溺れている人たちのことを思わざるを得ない。
それは道を外れたとはいえ、あまりにも神秘的な輝きを帯び、そこからは、どうしようもないほどに自分と同じ血の色を見出してしまう。

共感できないし寄り添えない。
しかし、どうしようもなく自分と同じ、自分も同じ。


「薬ダメ絶対」と教科書的に全否定できない
そこに残る「それだけ?」という感情。

ハイになんてなれるかよずっと
ハイになんてなれないから絶対

どれだけなりたいと思おうが、思ってしまおうが自分はなれないんだ。

ねぇきみはどこに堕ちたい?
飛ぶのならどこに堕ちたい?

私もきみもいつかはどこかに堕ちる。飛び続ける限り、トぼうとし続ける限り。

安心しないで息は止まるきっかり

そう、いつかはみんな息は止まる。
そしてどうしようもなく、になるのである。

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