カツサンドを日比谷公園で
まったく期待していなかったのに、帰り道でじんわり思い出していた。もしかして稀有な出会いだったのではないか。夕方のラッシュに押されながら、わたしの頭はランチに食べたカツサンドのことを考えていた。
そもそも食べたかったのはカツ丼だった。甘しょっぱいタレカツ丼。
出汁醤油のタレと卵でとじる、いわゆるカツ煮スタイルとは異なり、揚げたカツを甘辛いタレにくぐらせてオン・ザ・ライス。ソースカツ丼、タレカツ丼などと呼ばれ、北関東や福島、長野、新潟エリアでは馴染み深い逸品だ。ライス、千切りキャベツ、タレをまとったカツ。構成するメンバーは極めてシンプルでいさぎよい。
午前中の仕事を片付けてお待ちかねの昼休み。狙いは職場から徒歩5分にある「新潟カツ丼 タレカツ 日比谷店」だ。甘しょっぱい醤油ダレが染み込んだ3枚のヒレカツを、新潟産の美味しいお米「こしいぶき」が受け止める。
ランチの混雑を避けるため時間をずらして来店したのに、残念ながら店内は満席だった。口がタレカツになってしまっているので、後日、出直すことはちょっと考えられない。タレカツ丼を持ち帰ることもできるが、せっかくなのでテイクアウトでしか食べられないカツサンドを注文。待ち時間に冷たい麦茶を出してくれる心づかいも嬉しい。
商品を受け取ったらすぐ近所の日比谷公園に行き、手ごろなベンチに座る。5月の風が気持ちいい。出来たてのカツサンドをほおばるには、おあつらえのシチュエーションである。
軽やかにトーストされたパンは8枚切りくらいのちょうどよい厚み。爽やかな緑色の千切りキャベツをクッションとし、例の甘しょっぱいタレをまとった3枚のヒレカツがサンドされている。なんて整理されたレイヤーなのか!
まずトースト。食べて気づいたのはバターとカラシがパンの耳の際まで丁寧に塗られていること。神は細部に宿ると聞いた! また、トーストの食感がやはり良い。カツ丼の唯一の弱点は、カツのサクサク感が損なわれることだと思うんだけど、その部分をトーストのサクサク感が補っているのではないか、という仮説を立てておく。
つけあわせ、かさ増し疑惑のある千切りキャベツだが、しっかりと水気が切ってあるので、パンがベチャベチャしない。タレと絡んで絶妙の味わいになる仕掛けなんですね。そうなんですね。
主役であるヒレカツは、ロースカツと比べて脂身が少ないし、パン粉も細かく仕上げてあるためとても食べやすい。揚げ物を食べたい気持ちと、30半ばで弱ってきた胃腸とで、折り合いがつかないことが悩みなんだけど、今日このカツサンドについては杞憂となる。そして、タレカツ丼をタレカツたらしめる甘しょっぱいタレ。このタレ、ご飯よりパンの方が合うんじゃないかと思うくらい驚きがあった。
まったく予想していなかったタレカツサンドの美味しさに、勢いよく食べきってしまった。おしぼりを付けてくれたことにも気づかないくらい、没頭した。口の周りを拭い炭酸水を飲んだときの高揚感は、ランチから得られるものとしてはトップレベルだったと思う。
午後の仕事を終え、帰りの電車で急にカツサンドのことを思い出した。翌日も、その次の日も、ランチに同じカツサンドを食べることになるのだが、電車でTweetしてるわたしは、まだそれを知らない。
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