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相続分野の2024年の改正点について

相続の話をすると、「自分の家にはそれほど資産が無いから関係ない話だ」と言われることがあります。でも実際は、亡くなった人名義での財産があれば、多いか少ないかに関係なく様々な手続きが必要となるので、「全員に関係する話」なのは間違いありません。
終活が注目されるようになって久しいですが、親族が亡くなった際に必要となる相続後の手続きについて、家族間で情報を共有しているケースはまだまだ少数です。今回のコラムでは、相続分野に大きな影響のある2つの改正点とともに、無用なトラブルやストレスを避けるために知っておきたいポイントについて確認します。


■相続とFPの関わり

そもそもの話として、FPを相続の専門家として認識している人はほとんどいないかもしれません。ただ、基本となる相続や贈与に関する知識はもちろん、保険や年金、不動産、資産運用など、FPが身に付けている生活に必要なお金に関する知識の多くが、相続の際に役立つため、実はとても親和性が高いと思っています。

実際、僕は生粋(っていうのかな?)のFPですが、2007年に相続手続支援センター滋賀の創設に関わって以来、17年ほど相続業務に関わっており、FPが相続に関わる重要性を身に染みて感じています。

なお、相続に関連する話題は、2020年7月と8月にも記事を書いているので、参考までにリンクを貼っておきます。

誰にでも発生する相続に際して考えておきたいこと(2020年7月27日)
相続財産は誰がどれだけ受け取るのか?(2020年8月10日)

■今年の改正その①:戸籍の広域交付制度

前述した2020年の記事の中でもお伝えしている戸籍の収集について、2024年3月から「広域交付制度」が始まりました。

ほとんどの相続手続きでは、被相続人と相続人の関係性を確認するため、「被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍」と「相続人の戸籍」が必要となります。
以前は、こうした戸籍は本籍地の自治体でしか取得できなかったのですが、全国どこの自治体からでも取れることになったのが広域交付制度で、これによって相続手続きのスタート時点でのつまずきが随分と解消されています。

ちなみに、本人以外でも「配偶者、父母や祖父母、子や孫」の戸籍の取得が可能ですが、兄弟姉妹の戸籍は取得できませんし、代理人や郵送による請求はできない点はご注意ください。また、広域交付制度が利用できるのは本人だけですから、代理人など専門家に依頼した場合は従来通り「本籍地の自治体」に請求する必要があります。

なお、「自分の本籍地になっている実家を処分した場合、本籍地を変えなくてはいけないのですか?」という質問を受けることもありますが、変える必要はありません。
本籍地は、自分の住まいとは全く関係なく任意の住所を定めることができるからです。
実際、皇居(東京都千代田区千代田1-1)や甲子園(兵庫県西宮市甲子園町1-82)、大阪城(大阪府大阪市中央区大阪城1-1)などの住所地を本籍地として登録されているケースもあります。

とはいえ、売却して赤の他人が住んでいる家の住所が本籍地というのは違和感ありありではないでしょうか。本籍地の変更は「転籍」と言いますが、市区町村の役場で手軽にできますから、売却の機会に本籍地の変更を検討されるとよいでしょう。

■今年の改正その②:不動産登記の義務化

亡くなった方(被相続人)名義の財産の中に土地や建物の「不動産」がある場合、名義人を変更するための所有権移転登記を行う必要があります。一般的に「相続登記」と呼ばれるもので、正式な呼び名は、「相続を原因とする所有権移転登記」です。

不動産の所有者は、法務局に備えられた登記簿に記載されているため、所有権移転登記も法務局に申請するのですが、2024年3月までは登記の義務はなく、名義変更してもしなくてもどっちでも構いませんでした。これが、2024年4月からは「3年以内に行うこと」が義務化されたのです。

名義変更は自分でも十分にできるものの、一般的には司法書士さんに依頼することが多いため、当然報酬が必要となりますし、たとえ自分で行ったとしても登記にかかる登録免許税を負担する必要があります。
登記してもしなくてもよくて、登記するには手間と費用がかかるのであれば、「別にしなくてもいいか」と考える人が増えても不思議ではありません。また、相続登記の際には「相続人全員の合意」が必要であり、相続人同士の関係性によって合意が難しければ、登記したくてもできません。
このような結果、亡くなった人の名義のまま放置された不動産が増え、様々な問題が指摘されてきたことへの対応が、いよいよ今年から始まったというわけです。

正当な理由なく3年以内の登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
ちなみに、このことを定めた不動産登記法第76条の2第1項は次のとおりです。

所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。」

なお、この規定は義務化される2024年4月以前に相続した不動産についても適用されまして、未登記だった不動産は、2027年3月31日までに登記をしなくてはいけません。
毎度のことですが、締め切り間際には駆け込みで手続きする人が多く出るでしょうから、ギリギリに依頼しても、司法書士さんが手一杯で断られる可能性があります。該当する方は、できるだけ早めに登記を終えておく方が望ましいでしょう。

■相続税の基本

国税庁の発表によると、2022年の死亡者数1,569,050人のうち、相続税の申告が必要となった人は150,858人で、課税割合は9.6%(前年9.3%)です。つまり、全体の9割以上は相続税を納税する必要はありません。
そもそも相続税は、亡くなった人の財産評価額が一定金額を超えた場合にだけ課せられます。
この一定金額を「遺産にかかる基礎控除額」といい、現在は「3,000万円+600万円×法定相続人数」となっています。仮に夫婦と子ども2人の4人家族で夫が亡くなった場合、法定相続人は3人ですから、「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」が基礎控除額です。

例えば、自宅不動産の評価額や預貯金などの金融資産残高、ゴルフ会員権や車などのその他の財産をすべて合計した財産額が4,500万円だとすると、相続税はかかりませんし、申告書の提出も必要ないということです。さらに、財産評価額が基礎控除額を超えたとしても、配偶者が引き継いだ財産には大幅な軽減措置があるほか、要件を満たした自宅の土地評価額は少なく計算できる特例があるため、多くの人は相続税とは無縁なのです。ちなみに、こうした特例を利用する場合は、納税額が0円でも申告を行う必要があります。

■今年の改正点その③:贈与税の生前贈与加算期間の延長

そして、この相続税に関して、2024年1月1日から変わったことがあります。
1つは「相続税計算における生前贈与加算期間の延長」、もう1つは「相続時精算課税制度の見直し」です。

まずは1つ目。
人にタダで財産を譲ることを贈与と言い、贈与を受けた人は金額に応じた贈与税を負担しなければなりません。ただし、1年間で110万円までは贈与税が課されず、これを「贈与税の基礎控除」と呼んでいます。
さて、本来贈与を行うとその時点で財産の移転も納税も完了するのですが、贈与者が亡くなり、受贈者(贈与を受けた人)が相続人等として財産を引き継ぐことになると、生前に贈与を受けた財産も一定期間のものは相続財産に加える必要があります。ややこしいですね。

細かいことはいいのですが、「贈与済みの財産にも相続税がかかることがある」ということです。そして、「相続財産に加算される贈与財産」がこれまでは「過去3年以内に贈与した財産」だったのが、2024年1月1日以降に贈与した財産からは「過去7年以内に贈与した財産」となっています。これが「生前贈与加算期間の延長」です。

■今年の改正点その④:相続時精算課税制度に110万円の非課税枠が追加

そして相続税・贈与税に関するもう1つの変更は、相続時精算課税に「110万円の非課税枠」が認められるようになったこと。
相続時精算課税制度の説明は省きますが、むちゃくちゃかいつまんで言うと、父母や祖父母から、将来の相続人である子や孫に贈与をする際、1人に対して2,500万円まで非課税で贈与できる制度、です。
これだけ聞くと、とてもお得のように感じるかもしれませんが、この制度を利用すると、1年間で110万円までは非課税になるという「基礎控除」が2度と利用できなくなる上、贈与者が亡くなったときには、この制度を利用して贈与したすべての財産を相続財産に加える必要があります。

そんなこともあり、これまで利用者がかなり限定されていたのですが、2024年1月1日からは、相続時精算課税制度を利用した人も、2,500万円の非課税枠(特別控除額っていいます)とは別に、年間110万円までの非課税枠が設けられました。
しかも、この新設された110万円の枠を使って贈与した財産は、相続発生時に相続財産に加える必要がないというおまけつき。これはなかなか画期的です。
実際にどれだけ使われるようになるかは、統計の発表を待ちたいところですが、相続に向けての選択肢が増えたり変わったりしたことで、ますます専門家のサポートが求められるようになると思うのです。

■今からできることをやっておく

想いのほか、長くなってしまいましたが、誰もがいつかは迎えることになる相続については、これからも折に触れてお伝えしたいと考えています。

最後に、相続発生時のトラブルを最小限に抑えるポイントですが、これはもう相続人同士のスムーズなコミュニケーションにつきます。
もちろん、財産の一覧表を作成することや、遺言書・エンディングノートなどの準備といった対策も行うにこしたことがありません。
でも、相続人同士がお互いを思いやり、コミュニケーション密にとることができてさえいれば、多くのトラブルは回避できると思っています。

それぞれの家族には様々な過去がありますから、こんなこと言われてもどうしようもない、という方もいらっしゃるでしょうが、いつかは迎えるその日が、遺された家族にとっての苦痛とならないように、真剣に考えておきたいものです。

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