相談業務が「知識の披露」にならないために
2024年6月。
約2年ぶりのnoteです。
月日が流れるのは早いものですね(苦笑)
日ごろの日記は「FP栗本の幸せ日記」で週1回の更新を続けているのですが、なんとなくnoteからは遠ざかっておりました(深い意味はありません)。
私の中では「ブログ=日記」の位置づけなので、その中でも読む方にとっての学びがありそうな文章を、改めて月1~2回の頻度でこちらのnoteに綴っていこうと思います。
再開一発目のテーマは「相談業務」です。
1.知識の披露になっていませんか?
2024年5月末に、日本FP協会主催の「プロフェッショナルFP研修」で講師を務める機会がありました。
この時のテーマは「退職後の生活設計プランニング」というもので、平日の昼間にもかかわらず、70名の定員が満員となっていたことからも、このテーマへの関心の高さが伺えます。
今回シェアしたいのは、その時の内容ではなく、その時の受講者さんのアンケートから感じたことです。
おかげさまで、研修内容そのものは大変満足いただけたようですが、参加された方の中には「実践的な話(相談スキルなど)」を求めている方と、「その分野の最新情報(や知識)」を求めている方がいることを改めて感じたのです。
この時の研修は「FP相談を行う実務家」として必要な情報をお伝えするものですから、前提となる制度(や知識)についての話は最小限にとどめました。「これを知っておかないと相談に対応できません」という項目だけ、確認の意味で伝えるという程度です。
ただ、そうすると「その分野の最新情報や業界動向を知りたかった」というご要望が出てきます。
これは、非常によくわかるご意見である一方、そうじゃないんだよなーと思う部分でもあります。
文章で説明するのは難しいのですが、年金を例にあげると、相談者にとって大事なのは、「年金制度がどう変わるかの正しい理解」ではなく、「自分の年金額がいくらになるのか?」ですし、「それを前提にライフプランをどう組むか?」ですし、それも踏まえて、「年金をいつから受け取るようにするか?」という点だと思っています。
制度改正がどう進むかについての情報も、もちろんとても大切ではあるものの、自分の意思で変えられない点を話してもしょうがないという感じでしょうか。少し辛らつに言うと、「持っている知識を得意気に話しているだけ」ともなりかねません。
ここで大切なのは、相手を置き去りにする知識の披露は、相談業務において避けるべきだという点です。
2.情報発信か相談対応か
知的好奇心の強い方にとって、新しい知識や情報を身に着けるのは、楽しいことだと思います。その知識や情報が、相談業務で生きることもあるでしょう。
でも、世の中の全員が同じように知的好奇心が強いわけではありません。制度がどう変わるかということには特に関心ない、という方も少なからずいるわけです。
もちろん、「年金が減るのは嫌だ」「税金が増えるのは勘弁してほしい」という思いはありますから、「どう変わるんですか?」という疑問に答えるのも立派な相談業務だと思います。
一方で、それがわかったとしても、すぐに自分の望む方向に変えられるわけではありません。
「制度がなんとかならないんですか?」ではなく、「じゃあ自分はどうしたらいいんですか?」という問いにこそ答える必要がある、という感じです。
これは、どちらがいいとか悪いという話ではなく、情報発信を目的に学ぶのか、相談対応を目的に学ぶのかの目線の違いともいえそうです。
相談対応を目的にするのであれば、「いかに相談者の課題に気付き、この先の行動のプランをお伝えできるか」に重点をおくべきでしょう。
3.ライフプランはわからない
ちなみに、FP相談では明確な回答がないことが多いものです。
どの保険に加入するのか?どういう運用を行うのか?などに、唯一の正解はないからです。
どこまで行っても未来のことを正しく予測するのは不可能です。
自分がどうありたいのか?という希望と、その希望を叶えるために何を優先すべきなのか?という今の行動を決めることと、その行動の第一歩を踏み出すお手伝いをするのが、FP相談の大きな意味だと思っています。
行動がなければ結果は出ませんからね。
だから、「どうなるかわからないライフプランなんて、考えても意味がない」とはなりません。ライフプランを立てるからこそ、何が不足していて、何を準備すべきなのかがわかるわけで、少なくとも現在の行動に関する優先順位が明確になるのです。
人は「何をしていいかわからない」と不安ですが、「こういうことが起こる可能性が高い」という状況がつかめれば、具体的な課題への対応として、次の行動に移すことができるものですから。
世の中がますます不透明になっていく中、FPだけに限らず、専門家への相談ニーズは今後も増えるだろうなって感じています。
持っている知識や情報を相談業務に生かすためにも、こうした考え方を意識することは大切だと思うのです。