深くて、こわくて、美しいもの。
3ヶ月ぶりに、ダイビングに行ってきた。そう間が空いている訳でもないと思う。それくらいの頻度でスキューバダイビングをしている。
ダイビングと聞くと、なんだかすごく楽しそうに聞こえると思う。なんだかキラキラした世界、みたいな印象も抱かれると思う。たしかに、実際そういう海は少なくないし、僕がダイビングをする理由の一つはそうだし。
でも、ダイビングは、割と疲れる。
小学校の時、プールの時間の後は寝ちゃう、みたいなことは日本国民全員が経験しそうなことだと思う。僕は真面目小僧だったから、歯を食いしばって起きていた。
それの、デカい版、と思ってもらったらいいんじゃないか、と思う。
毎回、エントリー場所の海の上からボートで港に帰ってくる時は「よくやるよな」と力を使い果たした、あまり役に立たない頭でぼんやり思う。
大学生になって、スキューバダイビングを始めた。最初は、ほんの好奇心からだった。ピカピカの大学1年生だった僕は、四畳半神話大系の主人公よろしく何かしらサークルを探していた。
山生まれ山育ちの僕が海に憧れを抱くのは当然のことで、車窓から海を見れば「海や!」と叫ぶくらい。これはどうやら内陸県の人の習性らしい。万歳、奈良県民。
水泳は嫌いではなかった。嫌々通っていた小さい頃のスイミング教室のおかげといえる。水に体を沈めることには抵抗はなかった。
水深4mプールで初めてレギュレーター・空気を吸うための器材を体験した。少し感動した。こんなに簡単に水の中で呼吸ができるんだ、と驚いた。
ただ、海は話が違った。
初めての講習は福井県越前町。雲が太陽の光を遮る日だった。小雨さえ降っていたかも。
海の水は塩辛い。当たり前のことだ。知っていた。初めて海をがぶ飲みした。吐くかと思った。パニックにもなった。真っ暗な世界に、ひとりぼっちで落とされたような気がした。もちろん、結局無事ではあったんだけれど。
それから、色んな海へ行った。
初めてのダイブから、2年が経つ。
越前、串本、石垣島。一体何本潜ったんだろう。ちなみに記録をしっかり残していないから───何をするにしても、これは僕の悪いところなんだが───結局何本かは分からない。だいたい60本くらい?
オープンウォーター、アドバンスドオープンウォーター、レスキュー、と順にライセンスも取らせてもらった。友達はさらにその上のプロライセンスも取っていたり。僕はそこまでは出来ないから素直に尊敬する。僕が評価するのもちゃんちゃらおかしい話だけど、上手いんだ。潜るの。彼ら彼女らと一緒に海中散歩が出来ることを誇りに思う。
当たり前だけれど、楽しみはいっぱいある。
海の中で揺蕩う瞬間が好きだ。色鮮やかな熱帯魚たちに囲まれるのが好きだ。透き通るような青魚の群れを見物するのが好きだ。マンタやウミガメなんかの大きな海洋生物に遭遇するのが好きだ。ゆらゆら揺れる海藻の横を通り抜けるのが好きだ。岩の隙間から差し込む太陽を眺めるのが好きだ。きらきらひかる珊瑚のテーブル上を通るのが好きだ。船の上で食べるご飯が好きだ。他のダイバーの泡を見つめるのが好きだ。バディとハンドサインを交わし合うのが好きだ。
それだけ言ってはみる。
今だって、海はこわい。自分の力が、全く及ばない気がするから。大自然の前に、人は無力だ。もし自分の空気がなくなったら、5分と海の中にはいられない。もし海の中でトラブルが起こったら。恐怖でしかない。
それでも。
海はただ、ひたすらに美しい。