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だとしても、あれは間違いなく青春だった。

おせえ。あまりにも遅いし、もはやそんなこと誰も覚えていないかもしれないけれど、僕だけは覚えているので、久しぶりに筆をとって━━いつも通りけたたましい音でキーボードを叩いて━━みることにする。

もう八月。夏の終わりも感じざるを得ない。と言っていると、見た目にそぐわず四季の中でのお気に入りは夏、と豪語してやまない人に「私の大好きな夏をまだ終わらせないで」と突っ込まれてしまった。いやはや確かに。ちなみに「季節の中で何が一番好き?」とは気まずい雰囲気を打開するための僕の質問ストックの一つであるが、あなたはどうだろう。僕は秋です。すぐ終わっちゃいますけど。

さて。
社会人は案外おもしろい、などと少し前に綴った。けれど休みはもっと楽しいし、同期たちは僕が想像していた10倍は心の支えになっているし、会えただけでびっくりするほど嬉しい。
まだ到底追いつかなさそうなかっこいい大人も、目指すべき先輩の背中も、敬愛する師匠たちの眼差しも、間近で見て、毎日のように会って。そういえばもう少ししたら香港へ行く。とっても楽しみで、また目をバキバキにして現地スタッフの方や全国から選抜された精鋭チームのみんなとの話し合いに臨んでいる。

飛行機に乗ることも増えた。

増えたどころの回数ではない。まったく、ありがたいことばかりだ。
なんであんまり飛行機乗らなかったんだっけ、と思い返せば。
もちろん学生なんてお金がないことも一つだが、そういえば、コロナなんてもの、あったな。

大人たちは口をそろえて言っていた。
「せっかくの大学生やのに、残念やなあ」
優しさからくるものだと思う。
慈しみと、憐憫と。
でもあの時代、それを言われて嬉しい僕たちなんて、たぶんいなかった。
だとしても、学生の集大成としてのその時、を生きているのは僕たちだった。

あれは間違いなく、青春だった。


人生の夏休み、と呼ばれる期間の最後に、クソ暑い中毎日みたいに部室に通い詰めて、ひたすら、全員が納得できるよう、妥協点を見つけるために──半ば無駄な──話し合いをして、くだらない駄文をいくつも書きおろして、ネクタイを締めて、マイクを右手に登壇ばかりして。
ふと写真を見返していて、思い出してしまったから、この文も書いているんだけれど。
それら写真の中の、僕の楽しそうなこと。

大概僕のことをわかっていないようで──どれくらいわかっていないかというと、浪人した僕はずっと三年くらい関西の国立大学を受けると言っているのに、受験当日にあれ、東京の私立大学を受けるんじゃなかったの?と言ってくれたくらい、あんまりわかっていなかったけれど──よくわかっている父は「写真の真ん中にいるあんたを見て喜んでた」らしい。
だが、その次に母は続けて言っていた。
「もしあんたがいなかったら、それやりたかった子はいっぱいおったと思うで」
僕も、そう思う。やりたくなかった子も、いっぱいいたとも思うが。
そういう人の、思いも汲んで、自分がそこに立たせてもらっていて、座らせてもらっていることを感謝して日々過ごしていたい。
そういう生き方しかできないし、そういうやり方が好きだから。

結局、

僕は学生を卒業しても、場所、立場、職制、いろんなことが変わっても同じようなことばかりやっている。
いつだって。

あの時、一緒に汗をかいてウンウン悩んだり、隣を歩いてくれた学生時代の同期は、全国に飛び散って、各々がんばっているらしい。
夢を追いかけて東京に出た親友が、僕のお世話になっている会社と少しかかわっていたり。
あれだけ細くて白かった悪友は、先輩に影響されてジム通いをしていたり。
入行し、東京に行くとばかり思っていたジロリアンとは、相変わらず近くのラーメン屋で待ち合わせて。
どうやら順調そうな彼は東京に行くたびにストーリーをあげているし、何回か恋人と別れの危機と言っていた彼は、相変わらず別れていないみたいだし、彼らしいことばかりしていそうだし、自称ブラック企業に行った彼はヒイヒイ言っているらしいし、
お笑い芸人となったアホは、コンビを組んで早々解散しているらしい。ライブは全然面白くなかったけれど、何だかとっても誇らしかった。後輩たちもたくさん見に行ったらしい。人徳だなと思う。
みんな、全然変わってない。いや、あってないし、知らんけど。

うん。

あなたたちは、うまくやっていますか。


僕が愛してやまない、くだらない話でバカみたいに一緒に大笑いしあって、暑い蒸し部屋で静謐を刻んでくれた君たちは、うまくやっていますか。

たぶん、大変だ。
僕もそうだったから。大学生ほど、たいへん暇で目の回るほど忙しい人種はいないと思う。

あまり過去のことは振り返りたくない。振り返るのは、今の生活に満足していない気がしていたから。前の頁をめくるのは、今の物語に集中できていない証明な気がして。
そうやって、今を生きるということに固執して、前ばかりを見て、前のことは出来る限り忘れて、進んできた。

けれど。それも、そろそろいいのかもな、などというのは感傷に浸りすぎだろうか。まあ、栞を挟んだ箇所を読み返すのは、今の文脈をより楽しく読み解くための確認事項でもあるし。

もう八月、大学を卒業してほぼ半年、去年の大学祭からは約9か月。なんなら次のお祭りまでは3か月。よくもまあ。

それくらい、思い返せるくらい、鮮烈な1ページにはなるから。

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