別にしっかりなんてしなくていいから、どうか笑って、家に帰っていて
妹が二人いる。
僕の2つ下の我が家の長女と、8つ年の離れた次女。
長女はしっかり者で真面目、控えめで穏やか。
というのが、下馬評らしい。妹の友達が言っていたことを競馬の用語で表すのは些か気が引けるものではある。
控えめで穏やか?そんなの嘘である。
前にも書いたかもしれないけれど、僕は元来人見知りで、実に小心者という言葉のよく似合う少年時代を過ごした。
我が家はかなり女性が多く、母にも父にも「姉」がおり、いとこも女の子だけ、おまけに父も祖父も口数は少なかったので、それはそれは女性が強い家であった。
そんな環境下で生まれた人見知りで小心者の兄と、二つ下の妹。妹が強くならないわけなどないのだ。
強いといっても、喧嘩で僕をボコボコにしたなんてエピソードはないし、むしろあまりにも僕が幼かったせいでよく口喧嘩をしては泣かれていたくらいだ。
けれど、僕は小心者なので内弁慶極まりなく、新しく友達をつくるという作業があまりに苦手だった。
妹は真逆のタイプで、怖いもの知らず。どんどん周りの子たちに話しかけに行っては、輪の中心となる。それを遠巻きに見ているお兄ちゃんを呼び出し、彼ら彼女らに僕を紹介してくれる。そうして、僕が何とか仲間はずれにされることを回避する…というのがいつものパターンであった。
また、父親譲りのアクティブさも色濃く引き継いだ。だいたい僕が8歳くらい、彼女は6歳くらいの事だったろうか。家族旅行で、スキーに行った時のこと。
僕はビビりで怖がりなので、スキーなんてしたくない、僕はそりでいい、と言い張って数年。
そもそも寒い中雪山を細い板の上でバランスを取りながら滑り降りるなんて意味がわからない。全く生産性がなく、意味の無い営みだ、云々、と小さいながらに立派なマセガキはブツブツと社会の教科書で聞きかじった用語を並べ立てていた。小声で。
しかし彼女は違った。
「えー!楽しそう!私もスキーやりたいんやけど!!な、お兄ちゃん!」
嬉しそうな父。あんたはどうすんの、という顔の母。無邪気に笑う妹。
「お、お兄ちゃんもそう思ってたけど〜??」
妹の前で、兄はそう言うしかないのだ。
ーー
ここで自分語りに入るとする。
そんな僕だったが、小中高と歳を重ねるごとに「色んな人と話せるってかっこよくね?」などと思い、そこそこ社交的にはなってきた。
中学から違う学校に通った彼女とは日常的に顔を交わすことが少なくなり、口喧嘩の回数もめっきり減った。
ちなみにこの頃、8個年の離れた次女は両親ではなく兄の僕に対して反抗期に入ることになる。空手を始めた彼女の正拳突きは普通に痛かった。なんで?(あとから聞くと、どうやら家に帰っては寝てばかりの僕はダメ人間だと認識したらしい。確かにそれは一理ある。)
そうして、僕が馬鹿の一つ覚えみたいに生徒会だったりスピーチだったり筋トレだったりに明け暮れている頃、妹は恋人が出来たと報告に来た。
「へ〜、よかったやん」と何事にも動じず聞き判りの良い兄を演じた高校2年の僕だったが、内心は「え?!?!?!うそやろ?!?!?!」というバクバクっぷりであった。何も変わってなかった。
でも、彼女が決めたことなのだから気に障ることを言ってはいけない…と思い何も言わなかった。いやはや小心者極まれり。
さて、この頃にはもう妹は「現在の妹」とほとんど変わらない。
穏やかで、控えめで、しっかり者で、真面目で。
もちろん本当にそういう要素だってある。僕が言うのだから間違いはない。
しかし、僕は知っているし、彼女の「そうでない部分」に引っ張られて今の僕がいる。大概のアウトドアスポーツは父の趣味のおかげで入門したが、楽しさを教えてくれたのも、踏み出す勇気をくれたのも、彼女である。
たまに「人にナメられやすくて困る」と零すが、それはどれだけ出来ることが増えても偉そうにせず親しみやすい、という彼女の得がたい長所だと思うし、もともと君は兄の背中を見て育ったわけではなく、前を歩いていた妹なのだ。
まあ僕もなめられることはたくさんあるのだけれどね。
そうそう、反抗期の終わった次女はもうすぐ海外へと留学に行くらしい。次女は長女とも僕とも違い、とても自由で強心臓の人で。
先生とも学友とも仲がいいエピソードを、よく話してくれる。青春時代、先生とはなかなか折り合いがつかなかった僕からすると、とても羨ましいというか、それって、本当に素敵な事だと思う。
毎年学園祭では、自主的に全校生徒の前で1人でダンスを踊っているらしい。
ほんまかいな、と思ったけれど動画を見せてもらった。本当だった。
そんなあなたたちが、あまりにも誇らしい。
誇らしいの、だけれど、本当は別に誇りたいわけでも、誰かに自慢をしたいわけでもない。
あなたたちが何をできるようになろうと、どこで誰とどんな素晴らしいことを成し遂げていようと、正直そんなことは気にならないし、大した問題ではない。
ただ重要なのは、元気で、笑って、家に帰れているかということ。みんなでご飯を食べて、ぐっすりと寝て、気持ちよく朝を迎えているかということ。
もう僕達三兄弟は既に住んでいる場所も随分前から三者三様だけれど。どこに行ったっていいから、何をしたっていいから、楽しく過ごしていてほしい。
どうか。
ある人の小さな門出に寄せて