【要約・書評】「JTのM&A」-日本企業が世界企業に飛躍する教科書-

新貝康司さんの「JTのM&A」-日本企業が世界企業に飛躍する教科書-を読み、M&Aを使ったダイナミックかつスピーディな海外展開と、それを成功させてきた細かな仕組みづくりやマインドセットについてサマリー的にまとめていきたいと思う。


JTの海外たばこ事業とその概略

まずは、JTグループの2018年の売上セグメントを見ていこう。下図が示すように、実はJTは売上の殆どを海外事業から生み出している。

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グローバル・シガレットメーカーランキングでJTグループは、フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)についで世界第3位になっている。ビック・スリーの一角を占めている。

今ではこのようにグルーバルマーケットをその主力市場としているが、その海外展開を支えたのが、本題の通りM&Aであった。なぜ、海外展開を多額の買収プレミアムを支払ってのダイナミックなM&Aによって取り行っていったのかを見る前にまずは簡単にJTグループの略年表を見ておきたい。

JT略年表

特に表上で太文字にしている部分はJTグループが下してきた意思決定であったり、その意思決定に大きく関わる要因である。一読の上、次章に進んでいただけると幸いだ。


なぜM&Aを選択してきたのか

では、JTグループはなぜ大規模なM&Aによる海外事業展開を推し進めてきたのか。始まりは1985年、専売公社時代から念願の民間会社「日本たばこ産業(JT)株式会社」として成立したところだ。日本のたばこ市場が海外メーカーに開放され競争自由化が進み、翌年には輸入紙巻たばこの関税が無税化されることで、海外産の安いたばこが流入。加えて、急激な円高が進行していたという社会背景もあり、輸出にも抑制がかかり、さらに、日本の人口減少による国内市場規模の縮小が確実視され始めていた。

このような中で、JTグループは、①海外進展・拡大、②新規事業を長期ビジョンとして掲げることとなったのだ。

ただし、海外では、たばこに対して高めの関税がかけられていることが多く、また、たばこという商材の特徴上、特に先進国では販売促進や広告の規制が強くかけられている。これはすなわち、各国内でたばこ葉の調達・製造・販売を取り行うサプライチェーンの整備が必須であること、そして、新しくブランドを立ち上げて周知・ブランディングしていくことは時間や人材のリソースの都合上困難で、既に確立されたブランドを用いないと売上が見込めないということを意味する。

だからこそ、JTグループは当時M&Aという方法で、このような構造的な困難を乗り越えようと考えたのだ。そして、潤沢にあったキャッシュを元手に、買収プレミアムを上回るシナジーを生み出すことで、グローバル・シガレットカンパニーへと成長を遂げた。


JTインターナショナルの経営

JTグループは前述の通り、国内たばこ市場の成熟化を前に海外展開を目指したが、そのためのグローバル人材はもちろんのこと不足していた。そのため、人材面での「貧者の戦略」として時間を買うM&A究極の経験者採用であるM&Aに取り組み、買収後経営のガバナンスに工夫をこらすことで、RJRI(RJRナビスコ社 米国以外のたばこ事業)とギャラハーの2度の大型買収によって世界第3位のたばこメーカーへと成長した。そしてこれらの教訓を活かして2007年以降も、8度にわたり数百億円規模の買収・資本提携を続けている。

では具体的に買収後のガバナンスの工夫について見ていく。結論から述べる。JTと子会社JTインターナショナル(以下、JTI)の関係は、「適切なガバナンスを前提とした任せる経営」である。

個々の企業が有する価値規範とルールによるガバナンスをベースとし、詳細に定義された責任権限規定にJT本社の承認事項が明記され、その範囲を超えてJTが口を出すことはない。

ただし、大前提としてJTグループが掲げる理念「4Sモデル」や、「品質へのこだわり」、「中長期の視点を大切にしながら短期成果もしっかり出す」、謙虚さや真摯さ等の根源的な価値観は共に強く共有しているのだ。

※4Sモデルとは
お客様を中心として、株主・従業員・社会の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」という考え方。

任せる体制を成立させるために、徹底した経営の見える化に取り組んでいる。具体的には、①電子意思決定システムによる意思決定の見える化、②経営情報の見える化、③JTIの内部監査報告がJT副社長に直接レポートされる仕組み、の存在だ。「透明性の高い見える化体制」×「任せる体制」によって成立しているということだ。

もちろんその他、高い基準の報酬設計、渇望感を持って研修に挑める環境づくり等様々に組織を機能させる取り組みを行っており、だからこそグローバル規模の巨大企業のガバナンスができているということだろう。


コラム:JT・たばこ用語

①GFB...Global Flagship Brandsの略。海外展開のときの選択と集中を鑑みた時の特に注力するブランド。Winston、Camel、MEVIUS、LDの4ブランドのこと指す。

②RMC...Ready made cigarettesの略。いわゆる普通の紙巻たばこのこと。

③RRP...リスク低減製品 (Reduced-Risk Productsの略)。従来の紙巻たばことは異なり、喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品と定義され、最もよく知られているリスク低減製品は電子たばこと加熱式たばこ。

※電子たばこと加熱式たばこの違いは?

・電子たばこ...電子たばこにはたばこ葉が用いられておらず、液体(リキッド)を電気加熱することにより発生するベイパー(蒸気)を吸入する製品で、 リキッドにニコチンを含む製品と含まない製品の2種類がある。

・加熱式たばこ...加熱式たばこは、電子たばことは異なり、たばこ葉が用いられている製品で、使用時に、たばこを燃やさずに加熱することにより、たばこ葉由来のニコチンやフレーバーを含んだたばこベイパーが生成され、使用者はそれを吸入する。

④リトルシガー...たばこ葉を原料とする巻紙を使い、紙巻たばこと同様の形態に巻き上げた製品。たばこ事業法上「葉巻たばこ」に分類される。


まとめ

JTのダイナミックなM&A戦略によるグローバルマーケットでの飛躍的な成長は眼を見張るものがある。だが、それ以上にダイナミックな中にもガバナンスにおける丁寧な仕組みづくりや理念「4Sモデル」を根強く共有する姿勢に学ぶことは多いのではないでしょうか。

今後もたばこへの規制は強まる一方であることは間違いなく、また、国内の人口減少や喫煙者減少を背景に市場規模が縮小することも確実に起こるだろう。そんな中で、新規事業やさらなる海外展開をどのような舵取りで進行していくのか今後も注目しておきたい。


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