「竜のグリオールに絵を描いた男」 ルーシャス・シェパード -読後メモ#004-

とっぴな憶測に簡単に飛びつきすぎると思うかもしれないが、実際には四十年かけて飛びついたのだということを忘れないでほしい。わたしはグリオールを知っている、その恐ろしいほどの狡猾さを知っている。わたしが谷を訪れてから起きたすべての出来事に、その策略が働いていたのがわかるんだ。愚かなわたしは、わたしたちの迎えた悲しい結末の根本にグリオールの力が影響していたことに気づかなかった。

竜のグリオールに絵を描いた男

生涯を通して一つの事業に携わった男の人生のお話。

自分の人生は1つだけど、小説を通して感じるものがある。

登場人物の人生は、彩り豊か。
鮮やかな色、影がかかっているダークな色。
彩の変化が小説の中では描かれ、読み手はそのコントラストに感情の波を乗せる。

タイトルの「竜のグリオールに絵を描いた男」から想像するのは、楽しくファンタジーな世界、こどもがワクワクして、竜について、絵についての想像を膨らませる。

それこそ、「絵」にはさまざまな彩があり、配色も、トーンも自由に決めて、世界を思うように構築出来る。豊かなタイトル。

でも、読後にわたしが感じたのは、人生の単純さ。

がむしゃらに生きても、振り返ってみたときに残るもの、これは言葉にすると単純になってしまう。

あんなに大変だった、うれしかったことも、淡白な言葉におきかわってしまう。

そんな、憂いにも似た感情になる。

わたしは自分の人生がこんなにも単純なものだったのかとおどろいたんだ。ひとつきりの仕事、ひとつきりの情熱

竜のグリオールに絵を描いた男

この言葉が胸に沁みました。

小説 「竜のグリオールに絵を描いた男」

ルーシャス・シェパード(Lucius Shepard) 著 
The Man Who Painted the Dragon Griaule (1984)
内田昌之 訳

BOOK

『80年代SF傑作選 上』

目次
 ニュー・ローズ・ホテル / ウィリアム・ギブスン
 スキンツイスター / ポール・ディ=フィリポ
 石の卵 / キム・スタンリー・ロビンスン
 わが愛しき娘たちよ / コニー・ウィリス
 ブラインド・シェミイ / ジャック・ダン
 北斎の富岳二十四景 / ロジャー・ゼラズニイ
 みっともないニワトリ / ハワード・ウォルドロップ
 竜のグリオールに絵を描いた男 / ルーシャス・シェパード
 マース・ホテルから生中継で / アレン・M・スティール
 シュレーディンガーの子猫 / ジョージ・アレック・エフィンジャー
 エッセイ 回想のサイバーパンク / エレン・ダトロウ

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