初めは朝日、次に空から、アンコール・ワットへ
ゆうゆう2024年3月号掲載(最終回)
2023年は、4年ぶりに海外旅行に出かけた。4月に台湾の後、11月はアンコール遺跡群を見学したくてカンボジアへ。成田空港を朝に発ち、ハノイ空港経由、現地時間19時過ぎにシェムリアップ新空港に到着。 効率よく遺跡を見学するために今回はツアーを利用した。が、ゆとりある日程にはこだわり、4連泊のコース。
翌日から遺跡見学。まずは、ジャヤヴァルマン七世によって12世紀後半に建造されたアンコール・トム。1辺3㎞の外濠と高さ8mの城壁が取り囲む城郭都市である。
遺跡内に入る前に、濠を手漕ぎ舟で小クルーズ。舟の上で、現地ガイド女性キューさんによる歴史解説を聞く。
遺跡内に入り、まずバイヨンを見学した。アンコール・トムの中心に立つ仏教寺院。数多くの塔の上部には、四面に巨大な観世音菩薩。クメールの微笑みと呼ばれる穏やかな顔を見せる。
回廊の壁には、見事なレリーフ群。異国軍と戦う兵士たちや、闘鶏に興じる人々や調理風景など庶民の暮らしぶりまでもが克明に描かれている。仏教寺院ではあるが、聞き慣れぬヒンドゥー教の神々なども多く登場し、理解して話についていくのが一苦労。
パプーオン、ピミアナカスなどの遺跡を見学し、王が閲兵したという象のテラス、三島由紀夫が戯曲の題材としたライ王のテラスなどを回った。
昼食後、ホテルに戻り一服した後は、国立博物館の見学。日本語オーディオガイドもある。大小様々な仏像など、さらりと回るだけでも時間がかかる。
3日目は早朝出発。アンコール・ワットの朝日を見に行く。アンコール遺跡群への入場券は昨日入手した顔写真入りの1週間パス。毎日、裏面の日付にパンチで穴を開けてもらう。
薄暗い中、大勢の観光客が日の出を待っていた。アジア人より欧米人が多い。一番人気は、正面に向かって右手の池の前。次第に東の空が明るみ始め、6時過ぎ、中央祠堂の右手の森が赤く輝き始めた。天気がよくて幸いだ。
そのまま、アンコール・ワット内部を見学する人達もいるが、一度、ホテルに戻り、ゆっくり朝食。この日午前中は、タ・プローム見学。ガジュマルの一種、スポアンという巨樹の根が遺跡にからみつく様子が神秘的と人気。
昼前、アンコール・バルーンに乗った。気球で100mほど上空まで上がり、森に囲まれた遺跡を見下ろすのは、爽快。いよいよ明日は遺跡内部の見学だ。否が応でも気分は盛り上がる。
4日目午前中、その日はやって来た。濠を渡る西参道を進む。前日の早朝にも歩いたが、早朝だったのでよく見えなかった。ここは、日本の上智大学チームが数年がかりで修復作業をしていたが、つい最近完成し、国王も臨席して開通式が行われたばかり。
西塔門を潜ると第一回廊。バイヨンの回廊の比ではない規模のレリーフが壁一面を埋め尽くす。古代インドの叙事詩、ラーマーヤナ、マハーバーラタの物語。12世紀初めにアンコール・ワットを創建したスールヤヴァルマン二世の行軍。さらに天国と地獄や、ヒンドゥー教の天地創造神話、乳海撹拌など、じっくり観ていたら、いくら時間があっても足りない濃密な世界だ。
第二回廊外壁は、デバターと呼ばれる美しい女神像が多く彫ってある。その内側には中央祠堂を取り囲む第三回廊。急段を登れるのは王のみだった。
最奥の中央祠堂の中央。建造当時はヒンドゥー教のヴィシュヌ神が祀られていたが、400年前から仏陀が祀られた。西側の窓から外を見れば、西参道がまっすぐに伸び、そのさらに先に森が広がる。かつては、王様しか見ることができなかった景色かと思うと、とてもありがたい眺めに思えた。