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新造船の特別便に揺られて、南国秘境のトカラ列島で秘湯巡り

 鹿児島県の南、屋久島と奄美大島の間に小さな島が点々と浮かぶ。十島(としま)村トカラ列島。有人島は7つ。鹿児島と奄美大島名瀬(なぜ)間を週2便結ぶ定期船の寄港順に、口之島(くちのしま)、中之島(なかのしま)、諏訪瀬島(すわのせじま)、平島(たいらじま)、悪石島(あくせきじま)、小宝島(こだからじま)、宝島(たからじま)。長年、思いを馳せ続けてきた秘境だ。全島を巡ろうとすれば1ヵ月は必要。


 昨春、島に詳しい友人から、レントゲン便に乗ろうと誘われた。年に一度、船にレントゲン車を積載し、島民の健康診断を行うため、7島全港で2時間弱停泊する。各港10分停泊のため途中下船不可の定期船とは違い、この便ならば1泊2日で全島に上陸できる。

 5月29日夜、鹿児島港には3月に就航したばかりの新造船フェリーとしま2が停泊していた。名瀬までの2等運賃は1万1950円。旧船の2等は予約不要、大部屋の雑魚寝だったが、新船は枕元に仕切りと電源が配置され、各自の寝場所を指定されていた。


 23時に出港した船は、翌朝5時、暗い中、口之島に入港。2時間の滞在。忙しい。高台の集落目指して坂道を登っていくと、夜が明けた。白いユリの花が目立つ。島固有のタモトユリ。集落内の大きなガジュマルの樹下に、河(コウ)と呼ばれる水場がある。帰船前に北緯30度線モニュメントまで急いで往復。


 次の中之島までは近い。7時50分、入港。トカラ列島最大の島、人口も最多、と言っても200人はいない。集落は高台にあるが、海辺の2つの温泉に入ろうと決めた。まずは遠い方の東温泉。海際の素朴な湯小屋。硫黄の匂い。同じ船で来た人が2名。島の人はいない。いいお湯。無料だが、備え付けの箱に寄付金を入れた。少し先の中之島小中学校まで歩くと、実に立派な校舎が立っていた。早足で、港近くの西温泉へ。こちらの方が少し熱かった。ここにも寄付金。港で島の人が売っていた、今が旬の大名筍を加工したキムチタケノコを買い求めた。


 その後、諏訪之瀬島、平島と降り立ち、この日の航海は悪石島まで。ボゼという旧盆に現れる異形の神で知られる島。先頃、ユネスコの無形文化遺産に指定された国内10地区の来訪神のひとつ。ボゼの話は同行する友人から何十年も前に聞いていた。彼は学生時代からトカラに通っている。小さな広場が毎年ボゼが歩き始める場所だという。昔は古いボゼの仮面などが周囲に置いてあったそうだが、腰に纏うクバの葉と籠の残骸だけが埋もれていた。


 海辺へ下り、湯泊(ゆどまり)温泉へ。内風呂の他に露天風呂がある。露天はお湯が入ってないこともあり、なかなか入れないそうだが、今日は大丈夫。ぬるめのいいお湯。海が夕日に染められていく光景を眺めながら爽快な一風呂。


 今夜は船室泊まり。門限までに戻って、食堂で夕食。あらかじめ昼と夜の弁当を依頼していた。悪石島で作ってもらった弁当は、カツオの刺身とフライ、ゴーヤ、煮物、酢の物など島の食材ばかりの豪華版。ビールのロング缶2本があっという間に空いた。


 乗り合わせた中には、様々な人がいる。面白いのは郵便局マニアの一団。トカラの4島に最近簡易郵便局が開局した。全国の郵便局巡りマニアは訪問必須。効率よく巡るレントゲン便を見逃す訳がない、という事情らしい。


 翌朝7時出港。8時20分、小宝島入港。人口わずか60名あまり。停泊時間も最短で、1時間20分。目的は温泉に絞る。海際に天然の湯壺が3つ。真塩(ましょ)の湯。真ん中が入り頃。これは素晴らしい。大自然の中の温泉。潮騒に包まれ、至福の時を過ごした。


 急いで船に戻ると、最後の宝島へ。港の壁面にはサイケデリックな壁画が派手に描かれていた。


 トカラ列島全島を駆け足ではあるが訪れることが出来た。機会があれば、次は定期船で島をゆっくり巡りたい。

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