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みちのくの温泉を楽しむ鈍行列車乗り継ぎ旅

 春は青春18きっぷの季節。緊急事態宣言明けの3月下旬、鈍行列車に飛び乗った。利根川に昇る朝陽を拝み、菜の花や桜の花を眺めながら、常磐線を北上。福島県の竜田駅ホームの桜も満開、全国的に早い開花を実感した。

 仙台から東北本線、陸羽東線と乗り継ぎ、鳴子御殿湯駅で下車。若い頃は、18きっぷを手にしたら朝から晩まで鈍行に乗り続けていたが、今は明るいうちに下車するようにしている。今夜の宿は、東鳴子温泉旅館大沼。

 早速、名物の薬師千人風呂へ。時間が早いので大きな浴槽を独り占めすることができた。贅沢なひと時。その後、少し離れた高台にある庭園貸切露天風呂「母里(もり)の湯」へ、はしご湯。浴槽の脇にはフクジュソウが咲き始めている。湯に浸かると、思わず、ふうとため息がこぼれた。

 チェックアウトするまでに、5種類のお風呂を堪能した。すべて源泉掛け流し。よく温まる、美肌の湯として名高いお湯だ。

 鳴子温泉駅から新庄方面へ。山形との県境が近づくと車窓の積雪量がみるみる増えていく。奥羽本線に乗り換えると、やがて鳥海山が見えてきた。秋田からさらに4駅、追分駅下車。秋田県立博物館へ、事前に予約しておいた乗合タクシーで向かった。

 博物館1階にある菅江真澄資料センターがこのたびのお目当て。江戸後期の稀代の紀行家菅江真澄は、愛知県生まれ、若い頃から国学や本草学、写生などを学び、日本各地、とりわけ東北から北海道方面を旅して、絵と文章による多くの記録本を残した。生涯を通じ定住することはなかったが、晩年は秋田に長年滞在し、角館で客死した。

 センターには、若い頃からの自筆地誌の一部が展示され、旅の足跡を辿ることができる。非公開ではあるが、保管する「自筆本真澄遊覧記」89冊は国指定重要文化財。

 秋田市内へ戻り、駅近くのホテルに投宿。夕食は秋田の銘酒を揃える人気居酒屋へ出かけてみた。新政、雪の茅舎、山本、ゆきの美人、一白水成など人気の銘柄が各種並んでいる。しかしながら、店内は若者らでぎっしり満席、密状態も気になったし、カウンターの右隣席の客が喫煙し始めたので、早々に退散した。せっかくの美酒もタバコの臭いで台無しだ。

 翌朝は、市民市場で土産を買い求め、一角にあった自家焙煎の店でトラジャコーヒーを味わった。

 横手から北上線を東へ。錦秋湖の周囲は雪に埋もれている。北上駅まで来ると雪は消えた。東北本線を南下、宮城県の白石駅で下車。

 バスに揺られ、山あいの温泉、鎌先温泉へ。宿が数軒立ち並ぶ鄙びた温泉地。今宵の宿は昔ながらの温泉宿、最上屋旅館。2階の部屋に案内されると、窓の外には梅の花。帳場にはフクジュソウが生けてあった。木造の古い建物は、隅々まで手入れされ、大切に守り伝えられてきたことが分かる。

 まずは3階の貸切風呂へ。船の形をした浴槽。お湯は緑色がかった茶色のにごり湯。ぬるめのお湯は好みのタイプ。じっくり浸かることができた。

 夕食はひとりで部屋食。素朴な山の幸中心の献立を地酒を飲みながら楽しんだ。自家製の漬物が美味しい。

 食休みしてから、三宝の湯というお風呂へ。先ほどの浴室より広い。もうひとつの東光の湯は、翌朝、朝ご飯の前に入ることができた。いずれも加水、循環なしの源泉掛け流し。

 帰りのバスを待つ停留所には、鎌先温泉駅という表示。白石駅までは片道200円。実は前日、ここで下車する際に小銭がなかったのだが、運転手は帰りに往復分を入れて下さいと言ってくれた。心遣いが旅の身に沁みた。

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