201909 盛夏に一服の涼を求めて飯豊山麓、山の湯宿へ
昨夏、青春18きっぷを使って、米坂線から羽越本線を鈍行列車で周り、飯豊(いいで)山麓と奥只見入口、いずれも渋い温泉宿を泊まり歩いた。
初日は昼前に上野を発ち、郡山で1泊。山仲間と一度寄ったことがある名居酒屋、門土庵(もんどあん)で福島県の美酒と酒肴に舌鼓を打った。話すうちにご主人と不思議なご縁があることが分かり、今後長い付き合いになりそうだった。
2日目は米沢で途中下車し、「酒造資料館・東光(とうこう)の酒蔵」を見学。広い仕込蔵の中、外国からの若い女性がひとり、六尺木桶などを熱心に見学していて、日本酒ファンとして嬉しかった。
米沢からは坂町行きの2両編成の列車に乗り、小国(おぐに)で下車。今夜の宿は昭和26年開業の泡の湯温泉三好荘。最寄りのバス停まで宿の女将が迎えに来てくれる。30年以上前に、この先の梅花皮(かいらぎ)荘に泊まったが、その時は寄れなくて、ずっと気に なっていた宿だ。
駅前から乗った小さなバスは、登山姿のカップル、買い物帰りのお婆さん達を乗せて山へ向かう。教えられたバス停で下車しようとしたら、運転士が少し先に宿の車が停まっているのに気づき、そこで下ろしてくれた。
宿までは2㎞ほど。ここは昔から熊猟が盛んで、館内に昔の猟の写真やマタギ装束も展示されていた。
まだ明るいので、部屋に荷を置いて、樽口峠という飯豊山の展望名所まで歩いてみた。九十九折りの道を登っていくと、観光わらび園があり、さらに登ると、展望台に到着。目の前の飯豊連峰の山並みに圧倒される。山頂付近には雪を抱えた雪渓も見える。時折吹き渡る風はひんやり涼しい。
帰り道、道路の真ん中に立派なクワガタがいた。蝉の声がうるさいほど。宿まで下ると、風が生ぬるくなった。
さて、泡の湯の温泉。こぢんまりした石の浴槽。温度は38℃ぐらい。高濃度炭酸泉と聞いていたが、泡自体は湯口のあたりに時々ぷくぷくする程度。掛け値なしの源泉掛け流し。いいお湯だ。ひとりで貸切、実に気分がいい。
部屋に運ばれた夕食は、素朴ながらとても好ましい内容。インゲン、ナス、ズッキーニなど自家栽培の野菜を揚げた天ぷらは熱々。岩魚の塩焼きも焼き立て。山菜小鉢3種、煮物。さらに、しばらくして、一皿ずつ、岩魚刺身、豚野菜炒めが運ばれたのは酒飲みには堪らない。酒は羽前桜川の吟醸生酒。
食休み後、また温泉へ。湯の中に体が溶けそうな心地良さ。寝る前にさらにもう一度、湯に浸かった。
早起きした翌朝、まずは朝風呂。ゆっくり全身が目覚めていく。散歩に出ると、外は思いがけず涼しかった。朝食もまた充実していた。ウリが具の味噌汁も旨いし、何よりご飯が美味しい。
女将に送ってもらったバス停でバスを待っていると、時間を間違えてないかと、バス停前のお宅の女性が話しかけてきた。少し早過ぎたようだ。女将とは小中学校の同級生で、昔は生徒が100名ほどもいたという。ご自宅前に洒落たログハウスが立っているが、息子さんが10年がかりで手造りした音楽スタジオ。年に数回仲間が集まって夜遅くまでドンチャンやってると笑う。バスが来ると、今度は冬に来なさいと、手を振って見送ってくれた。
バスには飯豊山から下山してきた登山客が数名。山小屋は素泊まりで自炊するのが正解らしい。食事代の差額が4000円もするのにカレーだけだったと憤慨しているのが聞こえてきた。
小国から坂町経由で新潟へ出て、長岡花火大会で混み合う列車を乗り継いで、小出駅下車。駅前からバスで向かったのは、奈良時代開湯と伝わるラジウム温泉の栃尾又温泉自在館。こちらも噂に違わず居心地の良い温泉だったが、残念ながら紙数が尽きた。