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登校百景 雪山と少年
2023年2月某日
冬の真っ只中、弘前の実家に滞在していた。その時の話。
車道が除雪されると道路脇や歩道には雪の山脈が出来上がる。標高は1mから、多い箇所では2mに達することもある。
朝。
歩道に築かれた雪山の前に立っている少年がいた。ランドセルを背負っている。背格好から小学3、4年生くらいだろう。
その雪山は少なくとも1m以上ある。
どうする?少年。
お、両手で山肌をとらえて片足を高くあげた。登るんだ。
ずぼぼぼぼと足が雪塊に沈む。
そりゃそうだよ。
でも少年は構わない。
片足を深く突っ込んだまま、もう片一方の足も繰り出した。
ぐぼぼぼぼぼぼ…
沈んだねえ。
はまったねえ。
しかし少年は進路も登り方も変えない。そのまま無理矢理突き進んでいく。
〈雪を少しずつ踏み固めながら登ればいいのに〉と思ったが、助言は野暮だ。
頂上へなかなか辿り着けない。標高はたった1mだが難山だ。
そのうち雪が崩れて少年もろとも雪崩れた。
ランドセルの中まで雪が入ったのが見えた。
しかし気にしてないのか、それどころではないのか、そのまま続行する。
周囲を歩いていた小学生たちは、もう見当たらない。
遅刻だな。
周囲に目もくれない少年は、徐々に雪を固めながら登るコツを習得していったようだ。
何度目かの挑戦で、ついに頂上を制覇した。
雪まみれの姿でガッツポーズをする少年と、目が合った。
親指を立てて祝福した。
君のような人が、私は大好きだ。
だけど、まだ気を抜いちゃだめだよ。先生に遅刻を咎められるだろう。
この冒険は先生にごめんなさいを言うところまでがミッションだ。
さ、私は雪かきの続きをしなくちゃ。