絵師
その日もいつも通り、小学校からの帰り道で迷子になっていた。
陽射しが強いから日陰を選んで歩く。
てくてくてく・・・
しばらく行くと、大きな窓を開け放している家があった。
違う。
窓がまるごと取っ払われているじゃないか! 虫が入り放題だ!!
部屋の中は日陰になっていて薄暗かった。広い床いっぱいに大きな絵が敷いてある。
ねぷた絵だ。
その上に覆い被さるように屈んで筆を滑らせている人がいた。
なんの題材かわからなかった。
それより描いてるおじさんに
たちまち心奪われた。
その怖いくらい真剣な眼差しに。
絵に汗が垂れないよう、神経質に拭う様子に。
静と動の筆運びに。
絵ではなくおじさんに、もう夢中。
じっと見ていたら、顔を上げたおじさんと目が合った。
いけない、邪魔しちゃった!
焦って一歩下がった。
おじさんはすぐにまた描き始めた。
見ててもいいのかな。
おじさんを。
何も言われないものね。
どれくらい見ていたのかわからない。
再び顔をあげたおじさんが言った。
「帰んなくていいの?」
あっ!
しまった!!
ランドセルを背負ったままだった。
「すみません、帰ります!!」
慌ててその場を離れた。
しばらく歩いて、後悔した。
そういえば迷子になってたんだっけ。
おじさんに道をきけばよかった…
来た道を戻ればおじさんの所に戻れ・・・
いやダメだ。
それは禁じ手。
戻るのは迷子がこじれる可能性大のやつだ。
どうやってかは覚えてないが、とにかく家には帰り着いた。
ねぷた絵に色をつけるところも見たいと思ったけど、その後どう頑張ってもおじさんの家は見つからなかった。
迷子とはそういうものさ。