富山地鉄市内電車 地方都市の選択肢 LRTとコンパクトシティ
富山地鉄の中核を担う路線が市内電車=”市電”とも称される軌道線。いわゆる路面電車として、富山駅を中心に富山市中心部に6系統の路線が運行されていて、日本トップクラスに発達した路面電車網を誇っている。純粋な市内電車となるのは富山駅から南側の南富山、富山大学方面と環状線部分に当たり、北側は富山港線と呼ばれ2020年から一体運行されるようになった新しい区間。路線長は市内電車7.6km、富山港線7.7kmで合計15.3kmとなる。
富山駅から南は南富山方面、富山大学方面、環状線の3方向がかわるがわる発車する。ラッシュ時の8時台は合計29本発車とすさまじい本数。昼間は南富山行きが5分に1本、富山大学行きが10分に1本、環状線方面が15分に1本。北は岩瀬浜方面のみで15分に1本となる。一部富山大学と南富山、環状線から岩瀬浜方面と直通している。
環状線は反時計回りの一方通行、大手モール、グランドプラザ前、荒町、中町、西町あたりが城下町時代からの中心地で大型商業施設や歓楽街。富山駅周辺は再開発されていて新しい商業ビルやホテルや高層ビルなどがあるエリア。
開業は1913年で民間企業によって開業、その後1920年に市営交通となり、1943年に富山地鉄へ吸収され現代にまで至っている。例にもれず戦前より路線は拡大し、高度経済成長期の最盛期では1.5倍の11km超の路線を持っていたが、1984年には上記路線図の富山大学と南富山駅方面のみにまで縮小している。ここまではよくある衰退する地方の路面電車の日常風景でしかないが、ここからは富山市内電車が全国区となったポイントとなる。
1990年代以降、富山市は将来の高齢化や低炭素化を見据え公共交通機関を軸とした「コンパクトシティ」計画を策定し、富山地鉄をはじめJRなど官民一体となって路面電車を活かす投資を進めてきた。1つは環状線の復活で、富山唯一のデパートの大和や市民センターがあるエリアに直接乗り入れる路線0.9km再整備し環状運転できるようにした。
もう1つがJR西日本の富山港線のLRT化で、富山と岩瀬浜を結ぶローカル線だった富山港線を富山市が出資する第三セクターの富山ライトレールで受け入れ、富山駅側の1.2km区間のルートを変更して路面電車化してアクセスを向上、駅の増設、駅も低床の路面電車対応化、1時間1本レベルから4本へ増発、終電を遅らせる、郊外の駅前に駐車場整備して通勤利用の促進などの改革を行った。
そしてその集大成として、富山市の事業として北陸新幹線の開業に合わせて市内電車の富山駅を新幹線の真下の改札の目の前に移設。先にLRT化していた富山ライトレールを富山地鉄が吸収合併し、南北直通運転で富山市中心部へ乗り換えもいらず運賃も一律化で利便性が飛躍的に向上した。その成果は後述の通り着実に出ているし、日本一かっこいい駅と言っても過言ではない路面電車の駅が誕生している。この流れは先日2023年8月26日に開業したばかりの宇都宮LRTへ受け継がれていることは明白。
地鉄グループは100億円超を売り上げる地方私鉄として最大手となる。事業を見ると鉄道、バス、不動産、観光、建設、付随サービスとありがち。売り上げの大きい大規模な不動産展開や流通業を持っていない分主力の鉄道とバスの売上が半分くらいを占めている実直?厳しい?経営をしている。というよりも富山市41万人、富山県100万人のマーケットでここまで踏ん張れているのはなかなかすごいことではないかと思う。
2019年3月期においては鉄道と市内電車の売上合計が約24.4億円で、グループ全体売上約118億円に対して2割が鉄道事業となる。バス事業は高速バスと路線バスで売上自体は鉄道を越える31.7億円。2019年3月期の鉄道事業としてみると費用が23.8億円、利益が約6千万円程度とぎりぎり。一方でバス事業は8千万円の赤字。全体でみるとコロナ禍を経て補助金などを得ながらも黒字転換に成功している。
興味深いのはコロナ禍で交通機関の利用者も売上も落ち込むのはある程度しかたないにせよ、コロナ禍においても市内電車の売上は増え続けている点。これは市内電車においては2020年2月の富山ライトレールの合併と3月の富山駅南北直通運転が起爆剤となったのがはっきりわかる結果となっている。