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ひとりぼっちじゃないカフェという居場所

数年前、大学進学と共に私は上京した。友達もいなければ親戚もいない。もともと関西の大学を考えていたから、関東に馴染みもない。

祖父母と両親と姉と妹。7人家族だったから、「ただいま」と言っても返事の帰ってこない、暗い部屋はあまり帰りたくなかった。おかげさまで最初の1週間で3kgも体重が落ちてしまった。


「このままではマズい」
そう思った私は「行きつけの場所」を作ることにした。ひとまずこの辺りの飲食店を食べログで探す。そこから家に近いところを順番に見て回る。そうして気に入ったところを何軒か見つけ、定期的に行くようにした。

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その中の1つが「skipa(スキッパ)」だった。skipaは当時の私の家から歩いて5分もかからない場所にあるカフェだ。東南アジアっぽい小物や音楽がかかっており、とても陽気な気分になれる。そして店主の夫婦がお客さんと気軽に話していた。

「私も話したい」
一人暮らしで話し相手がいなかった私はskipaを行きつけにすることに決めた。それから1週間に1度、多いときは2、3度訪れるようにした。そうして名前を覚えてもらえた。

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それからはいろんなことを話した。大学のこと、家族のこと、実家のこと。なんと奥さんの方は私と同じ新潟出身だったという驚きがあったり。同じ常連さんに自転車をもらったり、一緒に歌を歌ったり、まさかの大学の先輩だったり。

そこに行けば帰るときには魔法がかかったようにいつも元気になった。悲しい日も嬉しい日もなんでもない日も、ふと「誰かに話したい」と思った日はskipaに訪れた。お店の2人はいつも気軽に話しかけてくれ、いつもサービスをしてくれた。私にとっての「東京の家」だった。

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そんなskipaは去年の12月に惜しまれながら店を閉めた。「もう会えないかもしれない」と思って私も2日連続で訪れた。料理が運ばれてきたときに「私、ここのチャイが好きで、それから飲めるようになったんですよ」と店主に言った。「そうだったんだ!」とすごく嬉しそうに笑ってくれた。そして、もう使わないからと店で使っていたチャイの粉と作り方の紙をくれた。

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店内は常連さんで満席だった。みんな帰り際には店主の夫婦と話してから「じゃあね」と何事もないかのように帰っていく。お店に来る前まではすごく悲しかったのに、ごはんを食べて、常連さんや店主の姿を見て、悲しさはいつのまにか消えていた。

「きっとまたすぐ会える」
私も他の常連さんたちのように「美味しかったです」と言って笑顔で帰った。私の大好きな場所はもうないけど、それでもきっと大丈夫。

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「行きつけにしようと決める」なんて、変だと思う人もいるかもしれない。「行きつけなんて、気がついたらなってるもんだ」と言う人もいるかもしれない。

でもその空間の「仲間に入りたい」と思うなら。自分から行動し続けるしかないんじゃないかと私は思う。フランスのカフェに入り浸ってたボーヴォワールだってそうだったんだから。


#カフェ #上京 #居場所 #いきつけ #エッセイ #チャイティー #サードプレイス

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