Go Toキャンペーンは旅行業者救済?「パッケージツアー」とはなんぞや、というお話
今話題のGo Toキャンペーン。
こちらのTwitterで省益争いのお話が書かれてたので
旅行業者の仕組みについて過去の記憶を掘り起こしながら書きます
(総合旅行業務取扱管理者持ってます)。
Go Toキャンペーンが一般人からして不自然に思えるのは
・なぜこの時期にGo To?
・個人でいくと宿泊先だけ割引なのはなぜ?
・Go Toって、行ったっきり帰ってこないの?(名称はほんまつっこみたい)
などなどあると思いますが、「個人でいくと宿泊先だけ割引なのはなぜ?」というのはTwitterのタケルンバ卿さんが記されているように「厚労省管轄の宿泊業者救済ではなく国交相管轄の旅行業者救済の側面が強い」と思われます。「個人手配じゃなくてパッケージツアー使ったほうがお得になるよキャンペーン」なわけです。
旅行する個人側からすると「個人手配とパッケージツアーってなにが違うの?最小催行人数1人とか2人のパッケージツアーて何?」という疑問が湧いてくるかもしれませんが、個人手配とパッケージツアーは、全然違います。
個人旅行
個人旅行は、個人で実施する観光旅行や帰省、業務旅行など個人が旅行の主体者となる旅行のことです。コロナ前まで日本にあふれていた外国人のお客さんは外国人個人旅行客、FIT(Foreign Independent Tour)がすごく多かったです。
旅行の主人公は個人じゃないの…?と思われるかもしれませんが、これは契約主体という意味で、行き帰りの交通の手配も、宿泊も、契約主体が個人となります。レンタカーを借りたり、新幹線のチケットを買ったり、宿を予約したり自分でやってね、となります。
個人と交通、もしくは宿との直接契約なんですが、現在はまとめサイト的なところで予約する人が多いので、気づかないまま旅行業者に頼んでることも多いです!ただ、本来であればお宿に直接電話をして予約を取って〜というイメージですね、直接契約。
個人旅行は、前々から計画してチケットや宿を数ヶ月前に予約して前払いして〜という方法を取ることもできますが、新幹線や飛行機は当日でも席が空いてたらその場でチケットを購入できますし、宿も当日支払いで問題ありません。キャッシュポイントが当日でもOK、ここポイントです。
パッケージツアー(募集型企画旅行)
一方、パッケージツアーというのは、旅行業法でいう募集型企画旅行に含まれる商品です。ホテルや旅館などの宿泊施設への「宿泊」と、飛行機や鉄道、バスなどの「移動手段」が最初からセットになっている旅行のことを言います。
「宿泊」と「移動手段」がセットになっている、という点が個人旅行と違います。
セットになってるとお得になる、と考えてください。マクドとかと一緒。
なぜお得になるのかというと、ざくっというと大きい旅行会社さんは「宿泊(ホテルや旅館)」や「移動手段(飛行機や鉄道)」を事前に卸価格で大量購入しているので、そこに自社の利益を乗せて販売しても十分利益が出るからです。
野菜などでも卸価格と一般販売価格違います。旅行という商品も、食べ物のように賞味期限があるわけではないのですが、ホテルなどの部屋を所有している業者さん側からすると「その時期に売れないと困る」のは一緒なので、卸価格は一般価格よりもだいぶ低くなります。
そして、パッケージツアーを購入したことがある人ならわかると思うのですが、パッケージツアーは予約した時点でお金を支払いますよね?当日思い立って「よし、パッケージツアー予約しよう!」と旅行代理店の窓口にいく人はあまりいませんよね?「宿泊」「移動手段」そして「オプショナルツアー」というパッケージツアーとは別の「体験系」の支払いもまるっと含めて事前に支払います。キャッシュポイントが旅行当日よりも前になります。ここがポイント。
個人としてはセットでお得!旅行業者&関連業者としては事前にお金を回収できる=キャッシュフローが安定する!ということで、パッケージツアーは個人にも事業者にとってもwinwinなわけです。
ちなみに、このパッケージツアーの仕組みを開発したのはイギリスのトーマス・クックです。去年破綻しちゃったけどね。
パッケージツアーを商品として扱う旅行業者
そんなパッケージツアー(募集型企画旅行)ですが、販売するには資格も登録も必要です。旅行業法という法律でがちがちに固められています。
下記、観光庁のウェブサイトより。
初見だとわかりづらいかもしれませんが、
旅行業者として募集型国内旅行(全国)を取り扱おうと思ったら補償金と基準資産合わせて1800万円(第二種)、海外旅行を扱おうと思ったら1億円(第一種)必要です。
昔は有限会社300万円、株式会社1000万円が必要だったのが今は0円でも株式会社を立てられるのに1億円の参入障壁!!!
なぜこんなに手元資金が必要かというと、前述のようにパッケージツアーはお客様からお支払いいただくキャッシュポイントが旅行当日よりも前なので、旅行業者には一時的に大金が保有されます。
一人海外旅行であれば交通と宿泊合わせても10万、20万円の世界ですが、これが家族5人旅行となれば100万円をゆうに超えてきますし、100人単位で旅行に行くとなれば2,000万円以上。これが一旅行あたりの価格です。修学旅行や写真旅行は受注型なので区分が別ですが、数百人単位のお金を一時的にお預かりすることになるわけです。
さて、ここで悪い旅行業社、仮にT社としましょうか、T社が現金を持ち逃げしたらどうなるでしょう…?
海外旅行に行っていなかった人はお金がなくなっただけですみますが(それでも数十万〜数百万円)海外に出発してしまった人は、残ってる旅程の宿泊費や下手したら帰りの飛行機代まで二重で支払わなければならないという状況になります。
そんなことがあるのか?と思われるかもしれませんが、日本の会社でも何回か起こってますし、去年のトマス・クック社破綻はラグビーW杯の時期だったので日本でも困ってるイギリス人がいました。
旅行業者が経営破綻?そんなときに!お金を保証してくれるのが!日本だと旅行業協会!
というか、万が一破綻してもちゃんと預かったお金の一部は返せるくらいの体力がないとパッケージツアーなんか扱っちゃいけませんよ、というのがこの高い補償金と純資産額の設定です。
破綻したら補償金なんて雀の涙ですがないよりまし!
旅行業界はコロナで風前の灯
今回のコロナ禍、さまざまな業種が大きなダメージを受けましたが旅行業界はほんとうにきつい。
インバウンドが盛況な4月のさくらシーズン、日本人大移動の5月のゴールデンウィークが潰れ、東京オリンピックの開催も怪しい。
もちろん、連動して宿泊業者も厳しい経営を強いられているのですが、宿泊業者にあって旅行業者にないものがあるんです。それは、物理的な、形のある、資産。
宿泊業者は物件という形ある資産を保有しています。もちろん、経営は苦しいですし、破綻する会社もありますが、物件を担保に借金もできますし、最後の手段として物件売却ができます。
一方、旅行業者は「宿泊」と「交通」を合わせて販売しています(ほかの商品もありますが)。保有しているものは人員とノウハウ。売りづらい…。
Go Toキャンペーンが宿泊業よりも旅行業救済に向いているというのは、管轄の問題もありますが、こういった側面もあるのかなと思います。省庁間の力関係もあるでしょうけど。
既存の旅行業の在り方の転換期はコロナ以前から
でも実は、上記のパッケージツアービジネスはコロナ以前から破綻気味だったのです。
イギリスのトマス・クック社が破綻したのはコロナ以前ですし、日本の大手旅行会社も旅行相談窓口を縮小したり有料化する動きがありました。
個人がインターネットで情報を得ることができるようになり、若い人だとパッケージツアー自体を利用しない人が増えています。こんだけ文章書いててなんですが、私は旅行相談窓口で相談してパッケージツアーを購入した経験はありません!インターネットで宿泊と交通がセットの商品は購入しますが。
昔は、例えばエジプトのピラミッドを見に行こうと思っても、どうやって飛行機とるの?ホテルはどうやって予約するの?ご飯はどうするの?病気になったどうしよう?不安だから旅行会社さんのパックツアーに申し込んじゃえ!という人たちが結構いたのですが、今はもう英語さえわかれば飛行機は航空会社のウェブサイトで直接取れるし、ホテルも英語サイトはあるし、現地に行ってタクシー捕まえたらひょいっとピラミッドの前で降りて写真を撮って目の前のKFCでお茶する、なんてことができるわけです。ある程度英語ができれば。
そのため、旅行業界は既存のパッケージツアーモデル以外の価値を提供する必要に迫られていたわけですが、今回のコロナ禍でダメージ大!もう自力では立ち直れないから国になんとかしてもらわないと、という状態ではないでしょうか。
私は旅行は大好きですし、旅行文化がなくなるようなことはないとは思いますが、参入障壁激高の旅行業ってどうよ?と前々から思っていたところはあるので、これを機に新しい旅行ビジネスが生まれるんじゃないかな。
あーーー!!!海外旅行行きたいよーーーーーー!!!!