第72回考える読書会『ロリータ』レポート
考える読書会のファシリテーターを担当していますNAOKOです。第72回考える読書会 『ロリータ』のレポートをします。
■ウラジミール・ナボコフ『ロリータ』
参加者9名(男性5名、女性4名)
■20世紀を代表する傑作とも20世紀最大の問題作ともいわれる『ロリータ』。日本ではロリコンの由来となった小説で有名ですが、読んだことはないという方が多いのではないでしょうか。
今回の読書会参加者でも、再読の方は1名で、他は全員初めて読んだ方ばかりでした。多くの方が思っていたような小児性愛・ロリコン小説と違ったと感じたようです。
『ロリータ』は、少年時代の初恋の相手を忘れられない中年男性の倒錯した恋を描く恋愛小説ですが、一方で、消えた少女をさらったのは誰かなど謎解きの多いミステリーでもあり、また、主人公ハンバートとロリータがある者に追跡されるサスペンスでもあるのです。
■物語は、大半がハンバートの獄中手記という形で、ハンバート視点で語られていきます。なので、ロリータの言い分を知ることもなく話は進み(信頼できない語り手)、まるでロリータがハンバートを誘惑したように書かれている部分もあり、そのあたりの真相を含め、どのように解釈していくかもこの作品を読み進めていく上で重要なポイントになります。
また、ハンバートの罪状は、女児の誘拐・性的虐待ではなく殺人で、なぜ殺人なのか、誰を殺したのか、など最後まで読んでいくとわかる仕組みになっていて、とても読みごたえのある作品です。
参加者の皆さんも、意外性のある小説だったととらえた方が多かったです。
■参加者の感想で多かったのは「読みにくかった」です。『ロリータ』は多くの文学作品などの引用・パロディが多く、アナグラムなど言葉遊びの洪水のような作品です。読書会では、その辺りを味わえることはできませんでしたが、『源氏物語』の「ムラサキ」が作中に出てきたのには、参加者全員で驚き、『源氏物語』も読みこんでいるナボコフのすごさを感じました。
■読書会で盛り上がったのは、ハンバートの手記『ロリータ』の執筆時間のずれは何を意味するのかについてです。
また、物語最後の方に登場するクィルティは、実は物語最初の方からその影をちらつかせ、巧妙に隠されていたことが読み終わるとわかり、こんなところにもクルティがと、クィルティを見つけるのが結構ドキドキして楽しめました。
さらに、会が進行していくうちに、ロリータの母親とのいびつな関係にひそむ母親の過去についてや、ロリータの夫ディックは朝鮮戦争からの帰還兵かもしれずその意味することについて、などいろんな角度から皆さんの意見が出されました。
■読書会資料でノンフィクション『テヘランでロリータを読む』(アーザル・ナフィーシー著)の引用を紹介しました。
「『ロリータ』の物語の悲惨な事実は、いやらしい中年男による12歳の少女の凌辱にあるのではなく、ある個人の人生を他者が収奪したことにある」
「ロリータは自分の人生を奪われただけでなく自分の人生を語る権利も奪われている」
上記はその一部ですが、この本でイランの女性著者は、イラン革命で文化の統制締め付けがあるテヘランで、禁書である『ロリータ』などの読書会をひっそりと敢行するのです。これを読むと、『ロリータ』を読む意味や新たな視点が出てきます。
『ロリータ』は、あらゆる読み取り、解釈ができるナボコフの作り込みのすごい「傑作」です。そして、『ロリータ』が単なるロリコン小説だという誤解を解き、「20世紀の問題作」からどのような解釈を得るか。読書会はそれにふさわしいと痛切に感じました。
■ナボコフは「ひとは書物を読むことはできない、ただ再読することが出来るだけだ」といっています。物語最後の一文が最初につながっていくところなど、『ロリータ』は「再読させる仕組みになっている」という参加者の方のご指摘通りの作品です。何度読んでも発見のある小説だと思います(私個人としては、再読をしてよかった本のベスト5に入る本でした)。
■『ロリータ』の読書会、参加者のお言葉をお借りして、まさに「知的興奮の2時間」でした。
ご参加くださった皆様、本当にどうもありがとうございました!!