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捩花のねぢるゝさなか


 五月中頃から茎を伸ばし始めた捩花(ネジバナ)が、ツボミをつけはじめ、いまは見頃の満開である。螺旋状に花をつけて、捩れて見えるのでその名がついているが、文字摺草(モジズリソウ)の異称もある。

  陸奥の しのぶもぢずり誰ゆゑに
  乱れそめにし我ならなくに

 百人一首に取られた源融(みなもとのとおる)の歌が知られているが、信夫綟摺(しのぶもじずり)とは、陸奥国信夫郡(現在の福島市あたり)でかつて作られた、織物の捩じれた模様のことである。

 蘭の仲間であるが、知らぬ人にはただの草に過ぎぬ。それゆえ、草刈り作業の迫るのに意を決して、薄明に自転車を漕ぎ、羽田空港近くからとって来たのだった。それから八年、毎年花を咲かせてくれている。

  切り花にしてもほどけぬ捩り花

 などと呟いたのは、もう十五六年前の頃であったか。ふるさとに住まう青年が戯れた一句であった。

  捩花のねぢるゝさなか妻は荼毘

 気持ちが移ろうように、季節が流れ、虫や花も生まれては朽ち、また生まれる。

 昨日のことのようだが、気がつけば、彼女が逝き間もなく一ト月である。

 どうしようか、まだ考える日がつづく。

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