暮瀬堂日記〜秋の蝿
節気が寒露から霜降に変わり、やがては立冬となる。いよいよ秋も深まり、街路の銀杏も黄葉し始め、行き交う人の中にはダウンをまとう者も見られるようになった。
日向では和らかい日差しが心地いいが、日陰では肌寒いくらいに感じられる。
街路樹の下の花壇には、仮寝の場所を探そうと虫たちが見に来ていた。蝶や蜂は蜜を求めて花穂の方へ向かうが、動きの鈍くなった蝿は、わずかな洩れ日があれば、選り好みせずに羽を休めるのだった。
飯もれば這つて来るなり秋の蝿 蓼太
蓼太一句をはじめ、「秋の蝿」は江戸期にも俳諧師たちに好んで詠まれている。
笠について一里は来たり秋の蝿 子規
かようの様からも伺えるが、体力の衰えた蝿は、人間への警戒心も、薄れているのだろう。
木洩れ日をみつけて降りる秋の蝿
上記一句を為し、近くまで寄るも、「秋の蝿」はじっと日向ぼっこを続けていた。
(新暦十月ニ十三日 旧暦九月七日 霜降の節気 霜始降【しもはじめてふる】候)
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