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暮瀬堂日記〜煮凝(にこごり)
冷蔵庫にあった煮凝りを食べていると、遠くから、どこかで聴いたことのある音が響いて来た。
遠くからとは言うものの、耳殻の奥深くから伝わって来る感じであった。
煮凝の真中にのこる波の音
箸を置くと、煮凝りに漂っていた魚の目が、こちらを凝視しているのに気がついた。私は思わず目を逸らし、魚の目に映っているのが、海の景色であることに驚いていた。そして、しばらく、波の音を聴き続けていた。
煮凝……煮魚を煮汁とともに寒夜に一晩おいておくと、ゼリーのように固まる。冬の季語。
(新暦十月十日 旧暦八月ニ十四日 寒露の節気 鴻雁来【こうがんきたる】候)