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暮瀬堂日記〜山茶花(さざんか)

 立冬の初候は「山茶始開(つばきはじめてひらく)」である。ここで言う山茶は、ツバキ科の山茶花のことを指し、漢名を茶梅(さばい)と言う。古くは葉を茶葉として飲用し、また茶花として用いるので、茶の字が当てられた。

 花の少なくなった初冬に咲き出るのが好まれ、庭木に植えられるのをよく目にする。椿と似ているが、椿は散るときに花全体が落ちるのに対して、山茶花はひとひらずつ落下するのが哀れである。

 そんな姿を目にしたこの日は、封書を投函するために、いつもと違う経路でポストに赴いていた。


 小路に曲がる角の垣根越しに、柿がたわわに生る人家を眺めていると、はらはらと葉が散るように花が落ちるのだった。他のものが止まっているのではないか、と思うくらいその様はゆっくりと可憐であった。凋落の美しさを実感できる、貴重な風物である。

  山茶花のはらりと花を誘ひ散る
  空気に乗りし山茶花を掌(て)に受くる

 手にしたひとひらを手控えに挟み、再びポストへ向かうことにした。


(二〇二〇年 十一月七日 陰暦九月ニ十ニ日 立冬の節気 山茶始開【つばきはじめてひらく】候)

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