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暮瀬堂日記〜熟柿(じゅくし)

 害鳥が猫に喰われていた。
 その鳥の名は知らないが、孔雀に似た羽を持っていた。なぜ害鳥だと分かるのかと言えば、柿をくわえて飛び去るのを見たからである。

 しかし、柿は熟柿であった。嘴の圧力に耐えかねてずり落ちると、芒の生える砂利道で潰れてしまった。害鳥はあわてて地面に降りて、夢中で柿を啜っていたが、芒から忍び寄る猫に気付かなかった。
 不覚であった、とは斯くの如き顛末を言うのだろう。
「ギャア!」という断末魔の叫びを上げると、しばらく身体をバタつかせていたが、顔を噛まれたところで落命した。程無く、辺りは静まり、嘴と飛び散った羽根が残された。

 猫が舌なめずりをしながら芒の奥へ姿を消すと、太陽がいつか入り日となり、空が天幕で覆われるように闇に覆われて行った。

 唯一光っていたのは、羽根である。傍らには熟柿のこびりついた嘴が天を仰ぎ、星の出るのを待っているようだった。

  くちばしに残る熟柿をぬぐひけり

 欲張らなければな、との思いを込めて追悼句を手控えた。

※熟柿……じゅくし。うみ柿ともいう。晩秋の季語。

(新暦九月二十三日 旧暦八月七日 秋分の節気 雷乃収声【かみなりすなわちこえをおさむ】候)

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